逡巡を、眺める。

同居人の一人は、今、考え、悩み、自分の答えを出そうとしている。
もう一人は……なんか、やさぐれてる。いい加減にしろよアイツ。

俺の回答については既に出ている。
この世界からどこか遠くへ行きたい。
俺は、というか「鵺丸」については、どこの世界に行っても問題なく適応できるように、
敢えてその世界に沿った能力だとか属性を省いて設定されている。
そのため、世界間移動については、条件さえ揃えられれば割と問題なく行える。
帰属する世界を持たないということは、縛られる制約も少ないということだ。

が、その割には俺は今、特に何をするでも無し、件の二人の動向を見守るに落ち着いている。

まあ、それについても原因はあの二人である。
多重人格などと異なり、俺らはそれぞれが別々の存在であり、
一つの中に三人（一人はほぼ事故だが）無理矢理調整して詰め込んだトンデモ状態である。
そのため、意思の疎通であるとか思考の統合が極めて難しい。

世界間移動については、世界と世界の狭間を通り抜ける必要があるのだが、
あの場所は時間も空間も判然とせず、ただただ茫洋と広がっている。
方向感覚はアテにならず、もちろん地図も存在しない。
と、言うか役に立たないので、そこを通り抜ける上では、
大まかでもいいので「どこに行きたい」といった
目的だとか指向性とかそういったものが必要となってくる。
その意識に応じて自身が意識に応じた世界に引き寄せられる、というのだろうか。
少なくとも俺が他の世界に行く時はそういうことを意識していた。

なので、それを持たない場合、下手をするとどこの世界にも辿りつけないまま、
本物の迷子になって世界と世界の裏側でひっそりと朽ち果てる可能性がある訳だ。
場合によってはもしかすると、どこに行くべきなのかという迷いの果てに、
胴から上だけが世界Aへ、胴から下だけが世界Bに辿り着いてしまうという、
あんまりにもあんまりな結末を迎えることにもなりかねない。

故に、俺ら三人の意志や目的が固まってない以上、
おいそれと世界間移動を行う訳にはいかない。っていうか怖い。
俺も今のはあくまで例として挙げただけなんで実際に何が起こるかはホントわかんない。
わかんねーから尚怖い。

多分恐らく、何かあった時に主導権を持って処理をする権限を与えられていた俺であれば、
あの二人を無理やりにでも従わせて、封じ込めて、
強引に統一したという体裁を保って世界間移動を行うことも可能かもしれない。

ただ、それも確証がないし、
俺が権限を持っていたのはあくまでも俺が二人である時の場合であって、
三人に増えた今、それが効くかも怪しい。

何より。
何となく感じていることなのだが、
同化が進む上での俺たちのベースは今、
どちらかというとあのエンブリオに寄っているのではないかと、うっすらそう思っている。

俺たちは必要な所だけ切り取られ、削り取られ、接ぎを当てられていた状態だったので、
ある程度の思考はできても、その土台は基本スッカスカである。
そのスッカスカの部分を今、あのエンブリオが介入することで埋めており、
俺の方も僕の方も、誰しも持っている当たり前の過去であるとか、自我というものを確立し獲得するに至った。

「今の自分があるのは●●さんのおかげです。」じゃあないんだが、
それと似たような状況だ。
恐らく今、俺たちの中で最も影響力が強いのは、
今、延々と自分自身の思考と諦めと絶望に沈んでいる、そいつの方なんじゃないだろうか。

で、そいつが今やさぐれてるからどうしよう、と。
そういった具合である。


もし、あいつが延々とこのままで、
俺たちとなんの意志の疎通もはかれない状態だったら？

その時には俺はあいつを食い潰す。
食い尽くして、「俺」にする。
いつまでも答えを待っている時間なんて、もう俺たちにはないんだから。
そうすれば残るは一人。それなら無理やりにでも抑え付けて、統合する。
俺は別の世界へ行ける。

……そうなる前に、どうにかしたいんだけどな。