（今回はENo.176 Gunow-Swaroldの日記とリンクしています）




エンブリオは契約者の生命力を得る。そして俺たちはエンブリオの力を借りる。
これは、そういう契約だ。
その「生命力」っていうのが具体的に何かと聞かれたら、何かなんていうのは上手く言えない。
感覚的には分かってるんだけど、それをどういうものかと相手に説明するのは難しい。
でも、生きていくうえで必要な何かであることに違いはない。




何の因果か、絶対零度な視線が素敵なグノウと二人で、薄暗い地下水路探索をすることになった。
「今城内で一番闇が深い地下水路へようこそ（人が来ない的な意味で）」という歓迎の言葉も頂いた。
すごく怖い。
加えて、いつも一緒にいるカルラがいないので、どうしたのかと聞くと、恐ろしい笑みと共にはぐらかされてしまった。
カルラと一緒じゃないのは少し気になったが、ちょっとグノウに聞きたかったこともあるし、それ以上追及するのはやめた。
笑顔が怖いし。
自分の身は大切にしていきたい。


ただ、カルラがいなかった代わりに、前に会ったときは見かけなかったエンブリオが一匹（一人？）ついてきていた。
正確にはついてきていたというよりも、闇の向こうに佇んでいたのだが。
そいつは、頭に被った骨の暗い眼下の向こうから、暗く赤い鈍く光る眼でこちらを見ていた。
見ていると、恐ろしくも、どこか引き込まれそうな光だ。
崖っぷちの上から底が見えない崖下を見下ろしたときに感じる、恐怖と、一歩踏み出したい気持ちに似ていた。


グノウ曰く、そいつは「グノウの隙を待っている」のだそうだ。
「食らう」ために。
ずいぶんと殺伐とした契約関係である。
そう思ったら、ヴォルカンが静かに笑った気がした。何が面白いんだ。




エンブリオが契約者の生命力を食い尽くす、なんて話はあまり聞かない。そう、普通は。
だから、グノウが続けて言った
「エンブリオによって生命力を食い尽くされた人間はいるのか」
という問いには「普通は聞かないよ」と答えた。

でも、契約者が生命力をエンブリオに「食い尽くさせる」ことはできる。

俺のような傭兵だと、普通に生活しているやつよりもエンブリオの力に頼ることが多い。
多いだけならいいが、必要以上に、限界を超えてまでエンブリオの力を借りようとすることもある。たいてい、それはどうしようもない最後の時だったり、激情に駆られて自分を顧みない時だったり、あまりいい時ではない。

「自らの炎に焼かれながら灰になったやつもいるし、風に切り裂かれたやつもいるし、深い闇に自らも飲まれて消えたやつもいるよ」

せめて、俺はそうならないことを願うばかりだ。使わなきゃいいだけの話なんだけどね。
だから、そういう人間が居るか居ないかという問いには「いる」ということになるわけだけれど、あくまで「契約者がそれを承知した」という前提が必要だ。
だから、闇の向こうからこっちを見ているグノウのエンブリオも、「普通なら食らいつくすことはできない」。


そこまで言うと、グノウは「そうですか」とだけ言った。
……つまり、「グノウの隙を待っている」という今の状態はとても正しい、ということにもなるわけだけれど、それは言わなかった。
答えたグノウの目はすでに俺から外れ、地下水路の先の闇を見ていた。
体調の件もだが、グノウってこんなやつだったっけ？
おもわず、グノウの目の前で手を振ったら、舌打ち手前のオーラ全開の顔を向けられた。
どうしよう。今日を生き延びる自信がだんだん無くなってきた。



薬の件も体調の件も、結局はぐらされたが、戦う時の動きを見ていればだいたいは分かるだろう。
カルラが一緒にいない機会なんてそうそう無いから聞いておきたかったが、しょうがない。






お借りしました。
ENo.176 Gunow-Swarold

陽炎の内に火竜の姿を確かに認め、驚いた勢いで尻もちをついてしまった。

　個人的にやりたいこと。そう問われると、少し首を傾げ、

　報復。そう語る瞳は、微かに冷温を帯びたようにも見えるかもしれない。

　何か変かな、と問われたことには首を横に振った。

自分の間違いは基本的に認めないスタイルらしかった。
ちらり、と槍を眺めて

>「メディネって歌だけじゃなくて楽器も使うんだ？」

ヒュッ、と鞭が風を切る音がする

ほんの少しだけ笑って、またいつも通りの顔に戻った。