■ 埋蔵金

「親分、金が唸るほどあるとしたら、まず何を喰いますかね？」
「何でえ、頭でも打ったのけえ。金なんぞ欲しがったら岡っ引きは廃業だぜ」
と無駄話しをしているのはマニー親分と乾分のハチベ。
しかし年中懐が寂しい岡っ引き稼業には似合わねえ話しだ。

「いや、これは詰まらねえ儲け話しとは違うんですよ」と空っぽの胸を張るハチベ。
「金儲けに詰まるも詰まらねえもあるけえ」と親分は冷ややかだ。
「まあまあ、ちょっと聞いてくだせえ」とハチベが話しだす。


ハチベが持ってきたのは埋蔵金の話しだった。
どこにでもある話しだが特にここは天下の御城下だ、
この裏山に将軍様の埋蔵金が埋まっているという噂があってもおかしくはない。

しかし、ハチベが仕入れてくる噂はいつものように曰く付きだ。
この山に隠されている埋蔵金と云うのは抱えるほどの金銀財宝だってことだが、
それは洞窟だか何処だかに無造作に放っておかれていて、そいつが何と逃げるという。
ある一揆の小隊連中がそれを見つけてすかさず飛びついたんだがあら不思議、
さっきまで宝があった場所にはただ暗い穴が空いていただけだということだ。

他にも宝石の塊がまるで生き物みたいに地面を這っていたとか、
そいつから不気味な笑い声が聴こえてきたとかの噂があるらしい。
あまつさえ宝石の下から血まみれの女の首が覗いていたとか…、


「話しがだいぶ変わってきやァがったな」と親分が遮った。
「まあ最後は眉唾ですけどね、でも逃げるのは本当らしいですよ」
と話し終わったハチベは珍しく楽しそうだ。
「お前、今回の話しは怖がらねえのけえ？」と親分が訝る。
「おっかねえことはおっかねえですが、それよりも財宝ですよ」
「そんな怪しい宝はうっちゃっときな。ロクなことがねえぜ」
と親分に厳しく言われるとさっきまでの元気が萎んでしまうハチベである。

「でも動く財宝の正体は気になりますねえ、またお城の連中の罠でしょうか」
「別に何か害があったわけでもねえんだろ。それはなさそうだな」
と、気を取り直したハチベの問いに親分も真面目に考え出す。
「とするとやっぱり宝石の呪いでしょうか…それとも付喪神？」
「この辺りじゃ道理は通らねえからな、何でもありそうなことだが」
言いながら親分は何か考えついたようで荷物を確かめ始めた。


半刻後、一行がいたのは山深い茂みの中。
そこで親分は何やら地面に穴を見つけ、そいつに何か細工をしていた。
「親分の言った通り、本当に穴なんかあるんですね」
と、それを見て感心するようなハチベ。
「宝の逃げた後に穴があったって言ったろ。それでもしやと思ってな」
「でも穴を掘って逃げるなんて、まさかもぐらじゃあるめえし」
「そのまさかだよ、ここの生き物どもは変梃な格好だってのは忘れちゃいめえ」
「えっ、じゃあこれはそのもぐらを捕まえようってんですかい？」
「宝石の格好をしていようと、もぐらなら網に掛かるだろう」
見ると親分の手元では穴に網を張った仕掛けが出来上がっていた。

「まあものは試しだ、何が掛かるか待ってみようぜ」
と言いながら腕捲くりする親分、流石にただの埋蔵金が引っ掛かるとは思っていないようだ。

赤いロープを羽の生えた蛇へと差し出す