さらさらと水の流れる音。
乾燥していた岩場は濡れて、飛沫を受けて明るく光る。

白いナニカがべしゃりと落ちたそこを探したが、場所が違っていたのか、それともすでにどこかに移動したのか、いや、万が一、流されたか——で、結局見つけることはかなわず。
ノンも不思議そうにくるくると回っていたが、やがて飽きてしまったようで水遊びを始める。
こうなってしまっては見失うほうが怖いと、少し寝覚めは悪いが——死んだと決まったわけじゃない、また会えるだろうが、どことなくこんな心地がした——動き出すことに決めて。

肩に乗せたマリオネット——セイレーンだ——が囁く。
つい、と指差す方向を見れば、水飛沫の向こう側、確かに緑色の影がある。
————いや、それだけじゃない！

避けろ、と思うよりはその羽ごとつまみ上げて。
きつくゴムを引いて大口を開ける海象に構えた。

艶めかしい女の声が、次第に歌声に変わる。
セイレーンと契約したことを、改めて実感する。

そうして、青いガラス球のような瞳の色が、ちりちりと赤く染まっていくのも構わずに、セイレーンに加勢を命じる。
どこで拾ったのだったか、ポケットに入れっぱなしだった小さなコインが、小さく光を弾いた。

竜蛇型のエンブリオに向けて人差し指をたてて、
共にそろりそろりとシズの背後に近付いて行く。

（金髪の少年は、慌ててどこかへ行ってしまうようだ。）
（スラッグマンはわけもわからずそれを見送った。）

（まだ顔をおさえて痛そうにしている……）

声のした方を一瞬で見極め，赤い物体が全速力で近づいてくる．

丁度テンションが高かったのか，トマトは一人嬉しそうに話し続けている．

ぼくが思うに、このお兄さんも「変な」ひとのうちの一人だ。
この一揆に参戦するひと、積極的に戦いに関与するひとをいうなら、だけど。

ちょっと、困った顔になる。
無事に帰るのは大事なことだけれど、やっぱり、臆病者という印象は、ある。
とはいえ。

ぼくに勝ったひとの、言葉だから。
やってみようっておもった。

　　　　　　──人もをし　人も恨めし
　　　　　　　　　　　あぢき　　　なく
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　世を思ふ故に
　　　　　　　　もの　　　　　　思ふ身　　　は───