———魔女のスープ。

おとぎ話に出てくるそれは、きっとおどろおどろしく、得体の知れない、不吉なものなのだろう。
魔女は悪役にされがちだ。
悪役が作るものは、恐ろしいものが入っていて、主人公を前後不覚に陥れる。



だが、俺が口にしたそれは、とてもまろやかで、なめらかで。
優しく包まれるような、そんな味がした。
魔女などと。呼ばれる理由がひとつも見当たらないくらいに。

数日経っても、できたてのようにあたたかかったのは、彼女の力なのだろうけれども。
悪い力などでは、なかった。




いつか、彼女にきちんと、おいしかったと伝えなければ。
また作ってほしいと、伝えなければ。

今の俺に、その資格があるかは、まだ解らない。

おそらく、夜。
異世界から来た貴方はどこかに宿をとっているのかもしれないし、
隠れ家を作って休んでいるのかもしれないし、
パーティメンバーと野宿をしているのかもしれない。
または度重なる移動により疲労し、一人でどこかで休んでいるのかもしれない。
とにかく貴方が一人で、今日一日の残り時間が少ないだろう頃、誰かが貴方を訪ねた。

多分、覚えてくれているなら、知っている声だ。
今にも力尽きそうなぐらいのランタンの光に照らされて、魔女が居た。