旅人はまだ見ぬものを求めて歩いた。
　それが望んだものであるかどうかは分からない。
　ただ答えを知りたくて、知らない何かを見たくて歩いた。

　やがて旅人は知るだろう。
　目を背けたものが、この道の先にあることを。
　知りたくもない真実が、待っている。

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　新王パラダイス。
　その正体は、強制契約型エンブリオ。
　人ですらない、知性ある何か。
　そしてサバスの言葉を信じるならば——その肉体は、前王ヨーレのものである。

（正直、これが一番困る展開だよね）

　これからのことを考えながら、アムルイは思う。
　もし前王ヨーレが、何らかの事情があってパラダイスに契約させられていた場合。
　そうなれば臣下の行いは主君を救うものであり、正当性を持つ。
　王の正当性を否定する理由が、ひとつ失われてしまう。

（民衆がそうと知って、王を支持するかどうかは分からない。
　だけど……不満があっても、元通りになるなら……呑み込めちゃう、よね）

　それはきっと、幸福な結末のひとつに違いない。
　そのために失われたものがあっても、許容できてしまうぐらいに。
　失わなかった多くの民衆は、その結末に安堵するのだろう。

　アムルイは自覚する。自分はそれでは納得できないと。
　王とて失ったものはあるだろう。
　ある意味では、誰もが被害者だと言えるだろう。
　これは天災のようなもので、皆で乗り越えるべき苦難なのかもしれない。
　だがそれでも、最早それで納得できる場所に自分はいないのだ。

（国が元通りになっても、失われたものは戻らない。
　変わってしまったものは、変わってしまったままだ。
　どんなに返せと叫んだって、誰にも支払うことはできない）

　だから自分は、自分達は、それに代わるものを得なければならない。
　失った隙間は満たせずとも、せめて価値のある何かを。
　それは何も帰らない、元通りの王国ではないのだ。
　そんなものは、自分が望んだ未来ではない。

　そうとも、アムルイは未来を望む。
　理想通りにはならないと知りながら、現実と折り合いをつけながら未来を望む。
　望まぬ未来を、その手で取り除くことさえ覚悟して。

　……いつだったか、彼女は言った。
　新王パラダイスを倒した英雄が、民の望んだ理想になる。
　犠牲を避け、多数を幸せにする——それが英雄というシステムだと。

　今でもその考えには、賛同できない。
　けれど少しだけ、理解できる部分もある。

　アムルイは自分が報われたいなどと思わない。
　もし自分が一人だけの気楽な身であれば、どんな結末も受け入れただろう。
　しかし自分を信じ、力を貸してくれた者は報われて欲しい。
　どうにもならない現実があっても、諦めさせたくない。
　そのためになら、いくらでも英雄という犠牲になっても構わない。
　——だが、その思いもあってはならないのだ。

（私が望んだのは最大多数の幸福でも、誰かの幸せでもない。
　誰もが自分のことを、選んで決められるようになること。
　王や英雄っていう、都合のいいシステムに任せてしまわないことだから）

　だから、納得できないという感情は捨てる。
　捨てた上で、望まぬ未来を取り除く。
　自分は報われなくていい。
　王国が元通りになることも望まない。

　そうしてアムルイは決めた。
　前王ヨーレにどんな事情があろうとも、彼を討つことを。


　私はどこまでも堕ちてやる。


　王殺しの咎も、逆賊の汚名も、全て引き受けよう。
　名を呪い、未来も幸福も奪うがいい。
　最早帰るところも、目指す場所もない。
　今ここに残ったのは、ただ理想に殉じるだけの妄念だ。

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　何故と問い続けた少女は、ついに問わなかった。
　己の幸福とは何か、と。

　そんな生き方しか、彼女は知らなかった。

(付加請けて頂きありがとうございます。対価お持ちしましたー)

(おまけの作製枠です。これでよろしいでしょうか)