もっと高く、遠くへ。
　羽ばたき続け、月を目指す。
　痛みに羽を休めることは許されない。
　爪を立てて握り締めた拳は、とうに血で染まっていた。

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　アシリアイノ——兄が討たれたと聞いても、アムルイに悲しみはなかった。
　ひょっとしたら生きているかもしれない、などという逃避もない。
　兄は討たれるべきことをしたのであり、当然のごとくそうなっただけ。
　そんなことに心を割くなど、誰も自分には求めていないのだ。

「もうすぐ、王の首に手が届きそうな状況になってきたね」

　仲間を集めた一室で、アムルイがそう言った。
　一揆衆の動きはそれぞれの思惑が入り混じりつつも、確実に新王派を追い詰めている。
　未だその姿を見せぬパラダイスだが、決着の時は近いだろう。
　そのことは、仲間達も認めることだ。

「あと10日ぐらいかな……それだけあれば、居所は掴めそうだよね。
　そこから決着まで、どのくらいかかるかは分からないけどさ」

　一揆衆の中には大礼拝堂を突破し、山岳の奥地へと歩を進めた者もいる。
　噂に聞くその地の情景を思えば、そこにパラダイスがいる可能性は高いだろう。

「とはいえ、確証があるわけでもないんだよね。
　なんとなく皆、そうじゃないかって思ってるだけで」

　だから保険の意味でも、別ルートで攻める必要はあるだろう。
　アムルイが仲間を集めたのも、そちらが理由だ。

「私は裏庭の奥を確認しておいた方がいいかなって思うんだ。
　そこが直接、王に至る道でなくてもいい。
　例えば研究棟のような施設が隠されていたら、叩く必要もあるしね」

　パラダイスの首を取って、それで全てが終わるとも限らないのだ。
　不測の事態に備えて、潰せる不安は潰しておくべきだろう。

「というわけで、そっちに向かうメンバーが決まったらまた連絡するね。
　言い出しっぺだし、私が行くのは決定だけど」

　その後、いくつかの打ち合わせをして、その日は解散となった。
　そして集まった仲間の中には、アムルイを気遣う言葉をかける者はいなかった。
　彼らがアムルイに望んでいるのは、兄の死で傷付くような弱い存在ではない。
　辛く苦しい時にも前に立って、人を導くことをこそ望んでいるのだ。

（だから——辛いとも、悲しいとも思わないし、思っちゃいけない）

　そんな心は自分には必要ない。
　ごく普通の人間らしさなど、あってはならない。
　多くの人をこの道に巻き込んだ者として、その役割を果たすのだ。

（だから兄さん、もう少しだけ待ってて。
　全部終わったら、お墓ぐらいは作ってあげるからさ）

　アムルイは止まらない。
　その道が覇道や王道と呼ばれる類のものであると、半ば気付きながら————。

そう文は、笑ながら自分の指揮棒で肩を叩きながらアムルイに告げる

そう言い、早速行動に移ろうと立ち上がった時に文は、ふとアムルイに思い出したように言う