どんなに長い道にも果てはある。
　時には遠回りに思えても、それも必要な道程に違いない。
　旅人よ。その道の果てに、君は今こそ新しい景色を得るだろう。

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　アムルイはできる限りのことをした、という実感がある。
　自分の新たな理想のために、望める限りの仲間を望んだ。
　自分にできるのは、きっとここまでなのだ。
　結局のところ自分には学がなく、知恵も足りていない。
　あるのは疑問を問う意思と、少しばかりの腕っ節だけだ。
　何かの礎にはなれても、人の上に立つのはさすがに不可能だ。

　一揆が終わった後、この王国を様々な形を持つ複数の国に分割し、連邦としてまとめる。
　きっとそれは、今の戦いが前哨戦に思えてしまうぐらい、大変なものになるだろう。
　だが武力での解決を望んではならない。
　同じことを繰り返さないために、次の戦いは意思と言葉で行われるべきなのだ。
　そうして衝突を繰り返し、皆が納得する形に落ち着けばいい。
　戦うことしかできない自分の居場所は、そこにあってはならないのだ。

（だからまあ……私がどうするかっていうのも、考えないとダメかな？）

　ずっと疑問を投げかけ、理想を追いかけて来た。
　しかしひとまずの終わりが見えたところで、ふと思ってしまったのだ。
　全てが終わった後、自分はどう生きればいいのだろうか、と。

（部族には戻れないし——けど、あてのない旅もちょっと嫌だな。
　できるなら静かなところに腰を落ち着けて、のんびり暮らしたいけど）

　野山を駆ける日々に、未練がないと言えば嘘になる。
　だが部族には戻れなくなった今、それを望むことはできなかった。
　似たような暮らしはできるだろうが、それはただの代償行為だ。
　そんなことをしても、いつか虚しくなるだけだろう。

（いっそ畑を耕してみるのもいいかな？
　それとも得意なことを活かして、革職人って道もあるか）

　まだまだ時間はある。別に今すぐ決めずともいいだろう。
　ただ——自分の未来を考えることが、何故だか無性に楽しかったのだ。

（ああ、そっか——思えば今まで、私って自分のこと、考えてこなかったんだ。
　……うん。それはアイサや兄さんにも、おかしいって言われるよね）

　苦笑を得て、アムルイは面を上げる。
　用意された場所は、城下町にあるサロンだ。
　集った面々を見て、自分のためにも精一杯をやろうと思う。
　彼らには彼らの理想があり、自分には自分の理想がある。
　それら全てを叶えるためにこそ、自分達はここに集ったのだ。

「——そろそろ時間だが、いいかね？」

　傍にいた大商人、ラッセル・ヨークが声をかけてくる。
　彼にも随分、世話になったものだ。
　そしてこれからも彼には、苦労をかけるのだろう。
　自分は足りなくて、自分だけでは何もできなくて。
　だから皆を、仲間を必要としたのだ。

「うん、始めようか。
　新しい暫定議会を——そして私達の、新しい旅路を」

　アムルイ・パセニシパは最初の一歩を踏み出した。
　もしも全ての理想が叶ったならば、後世、歴史家はここを始まりと呼ぶだろう。

「さあ皆、これからのことを考えよう」
　

「互いに元気そうで何よりだ」と付け加えた後は、アムルイの話をじっくりと聞いていた。
　共和制の話に入ると、やや顔をしかめる。
　ただ、それは民が治める体制に対する嫌悪感というよりは、未知の体制を訝しむ故であった。

　もしそうなれば、フーキの仕える辺境貴族の立場は危うくなるかもしれない。
　共和制の大きなうねりが生まれ、民の大叛乱を招く未来も無いとはフーキには言い切れない。

　アムルイの「共和制の国も、封建制の国も、共存できる道を」という言葉が渦巻いていた。
　二つに一つしか無いのか？　アムルイが手を差し出してくるまでに結論づけた。

　新王が倒れようと、貴族は民が歯向かうがままにやられはしない。
　武力、権力、財力、あらゆる力を持って民を抑えつけるだろう。
　権力を手放したくない、という貴族の欲は側に居たフーキがよく知っている。
　小規模ならともかく、大叛乱となれば、民と貴族どちらが勝ったとしても、国としての体裁を保てるかは分からない。

　今、貴族は当たり前だが、民の上に立ち、政を行っている。そしてその立場を揺るがせないために、数多の方法を知っている。
　民を怒らせないための善政、自身を守るための護衛、同じ貴族に蹴落とされないための交友、その他フーキも知らない方法を。
　民が直ぐに力を持つ、という事が必ず良いとはフーキは思っていない。

　ここまで言い終えると、フーキは少しため息をした。

　アムルイと同じ様に、手を差し出す。

あぁ、またか。
アイサは少しばかり頭の中で呆れる。
またアムルイが、何かへんな答えを導きだした。
そう思い、何か説教としようとした刹那——

アイサはふと考える。

彼女の出した答えは、そこまでおかしなものなのだろうか？

連邦制の欠陥は明らかだ。
人は自分以外の人間の価値観を認めない。
連邦は何も決められず機能不全に陥り、すぐさま瓦解してしまうだろう。
第一、共和政と王制が相容れると思うのか。

だが、考える。
天に数多の星が煌くように、地上に多くの国家がひしめく状態とは、そこまで悪いものなのだろうか？

各国の内部はあくまでも自治のままで。
連邦は国同士で揉め事がおこった時、利害の調停に乗り出す。
その時に動くのは利害になるべく関係ない第三国。

なるほど、悪くはない。
人間は確かに独善的で、異なる価値観を認めない。
だが、第三者を敵に回したくない生き物でもある。

王制か、共和政か。
二者択一ではなく、あくまでも選択肢へと落とし込む。
可能かもしれない——ただ一つの問題をこなせば。

そう、連邦制の問題点。
それは、各国の国力が一定ではない事。
立ち上げ時に各国の国力バランスが取れなければ、連邦制はおのずから崩壊する。
そして——

そう、これがアムルイへの宿題。
さて、彼女の答えは——

キミの質問に対し目の前の少女、白雪は困惑した幼女うを浮かべる。
キミの調べでは白雪はメルンテーゼに元から住む住民で、これまでずっと一つの国の元で暮らしていた人間だ。
この問いは白雪には突拍子もないものであったのだろう。

自分は無知だから、と白雪は言ってから続ける。
言葉を選んでいるような、自分の中の言葉が適切でなく、発言に困っているような表情だった。

ぶつぶつと、自分の世界に没頭する白雪。
キミはそれをじっと眺めている。

白雪は自分に言い聞かせるようにゆっくりと呟く。
この世界に住んでいるならば普通は聞かれることで初めて考える問題だ。
キミは白雪が答えを出すまでじっと待つ。

人も産業も、経済も地方単位で見たら発展する。白雪はそう言い切った。
彼女の一つの答えが出たのだろう。
目の前には少し得意げに笑みを浮かべている白雪がいる。

言われたことしかしない。
商品の出し惜しみはしないのだ、と白雪は言う。
アムルイが上得意になるためのさぁびすである、と。

そこで一呼吸置いて白雪は続ける。
そこにはそれまでの真剣に悩んでいる表情は消え失せている。
笑みを浮かべて、次は白雪がキミに質問を投げかける。

この子はアムルイ、たまたまお金に困っている人がいる
という六花からの話で、お金を貸したという間柄の子である

ただ、最上は風の噂で聞いたことが会った、共和制を掲げる一揆勢が居ることを
そして、そのひとりとしてアムルイの名があがっていたことも

文には一つの懸念があった、この戦はあくまで現体制の打破である
が、当のメルンテーゼの人は、この戦いに勝ったらどうしたいのか、またはどこを落とし所と捉えているのか
この戦の終わりは果たして王を倒せば終わるのか・・・
大名として数々の戦いを主導し政治と結びつけてきた文としては、この戦いを、
戦後のメルンテーゼを当のメルンテーゼ人はどう考えているのか・・・と
そういった意味で、戦後を考えてるアムルイというメルンテーゼ人は新鮮であった

そういうと文は、アムルイの話に耳を傾け、其の話が終った後ぽつりといった

やれやれ・・・まったく・・・と大きくため息をした後
アムルイに対して、強く言う

文の其の目は、アムルイの連邦という体勢を作る困難さへの覚悟を見るようにアムルイを見つめている。
文は、所詮異世界人、元の世界のこともある、生半可な覚悟のやつに付き合う義理は皆無なのであるのだから、当然である

白雪にでも相談されたのだろうか？文は部隊仲間の白雪の話題を出してきた。

ああまではっきりと王制を否定していたはずのアムルイから、王制を続ける道を模索してくれと頼まれるとは。
こうして話すのは久しぶりとはいえ十数日である。彼女はその間に一体どんなことを経験したというのだろうか。

そう言って何かを思い出すように目を閉じる。
実現したい、もしくは実現させたくない未来をグレンダも持っているのかもしれない。