「五十六、五十七…」

——ブンッ、ブンッ

朝、まだ日が登りきらないうちから素振りの音が聞こえる。
夜のうちに冷えた空気を肌に感じながら、私は素振りを続けている。

「七十二、七十三…」

いつから始めた習慣だろう。
旅立つのを決めたあの日からか、それともセルフォリーフから戻ったあの日からだろうか。

「九十一、九十二…」

少なくとも、己の剣の道に迷ったのはセルフォリーフを旅してからだ。
それまでの私はただ、剣を振るのが好きだった。何も考えずに、ただただ愚直に剣を振っていた。

「九十九…」

でもあの時…私はあの妖精に何も言えなかった、盗賊団を皆殺しにしたあの妖精に何も聞くことができなかった。
そして多分、自分自身もどうすればいいのかわからなかった。

「百…と」
『おつかれ、ルアちゃん』

丁度百回、素振りを終えた私に声が掛かる、この声はよく知っている、あの時私と一緒にセルフォリーフを旅していたアウラルさんだ。

「あ、アウラルさんおはようございます。早いですね？」
「うん、たまにはこうやって早起きも悪く無いね。」

やっぱりちょっと眠いけどね、そう言いながら軽口を叩くアウラルさん。
セルフォリーフを旅していた頃よりも肌色は悪く、見た目にも無茶をしているのがはっきりわかる。

「よいしょ…っと、隣、いいかな？」

そう言うと私の返答を待たずに蕾を大きくして座る。私も刀を肩にかけ寄り添うように岩に腰掛ける。

「ふぅ…まさかまたルアちゃんとこうやって旅をすることになるとはね。」
「はい、私もまたアウラルさんとご一緒できるとは思ってもみませんでした。」

この世界を旅してから一週間。色んなことがあってこうやってゆっくり話すのは初めてな気がする。
これまでの空白を埋めるように色々な話をする、離れていた間のこと、故郷のこと、セルフォリーフでのこと、これからのこと。

「それにしてもルアちゃん、強くなったね。おばさんもう足元にも及ばないわ。」
「い、いえそんなっ！私なんてまだまだでその、刀だってうまく扱えませんしそれに…！」

それに剣を振る理由もわかっていませんし、そう言おうとしたが言葉にならずに詰まってしまう。

「……」
「……」

気まずい沈黙が流れる、日差しは夜の空気を払い朝の訪れを告げはじめている。

「…ま、ゆっくり見つけていけばいいんじゃないかな。」
「…はぁ…アウラルさんには敵いませんね。」
「あはは、伊達に四十九年も生きてきてないからねー。」

どうやら見透かされていたようだ。
私が剣を振る理由、この旅で見つかるのかな。

さらっと返されて、思わず目をそっとそらします。

以前よりは、怪我が減ったから、うまく使えてはいると思うのですけれど、とため息。

ちょっとピントのずれたお礼を言いつつ。