シエミさんはゆっくりと、こちらの眼を見ながら話した。
「そう、ですか」
言葉を選んでいるうちに、茜陽が頬にゆらめいて肩口へと抜けていく。
それと一緒に鳶色の髪が視界を割いた。
そういえばここに来てから、一度も髪を切ってないんだったな、と思った。
「俺は……俺は、そうですね。シエミさんに付いて行ってもいいですかね。特にやれることもないんですけど……」
本当にやれることなどないのだった。
今も左目の中ではベロニカと蒼い悪魔が気の遠くなるような戦いを続けていて、蒼い悪魔は気付いていないようだが戦いの行く末は千日手か両者相打ちかしか無いように思われた。
どちらにせよ、いつかモックの身体に潜んでいた溢れるほどの理不尽な力は消え失せるだろう。人のかたちを保っていられるかすらわからない。
＜心配するな。わたしがなんとかするから＞
（無理すんなよ）
こいつともちゃんと話をしないとな、と思った。
ほとんどのことは言わなくても伝わっている気がしたのだが。

「……ああ、メシくらいは作りますよ」
空の色がもうずっと怪しい。この世界がどう変化していくかわからないけど、まあ二人程度の胃袋なら受け止めてくれるんじゃないかな、とモックは持ち前の楽天さで考えた。

「お別れ会、やんないとっスね。酒とか手に入るのかな」

レイスさんとマルさんで行動するのか、うまく言えないけど、ひどくあぶなっかしい感じがした。
それに、レイスさんのあの腕。
気付いているのは自分だけなのだろうか？
何か言うべきなんじゃないのか？
だけども、今の自分から二人に、どんなことが言えるのだろう。


太陽が沈みだした。
音もなく、舐めるように大地を飲み込んでいく。

大剣を放り出し、構えを取らない。