ヴィーヴルになってしまうところだった。でもヴィーヴルって何なんだろう。分からない。あいつらの手が俺のすぐそばまで伸びてきて、けして誰にも触られたことのない部分を触られた気がする。ヴィーヴルの手。ヴィーヴルには手がある。それだけは確かな事だ。三匹いる。でもあいつらひとつひとつがヴィーヴルなのか、すべて合わせてヴィーヴルなのか、それすらも今の俺にはわからなくなっている。心臓の中にヴィーヴルがいる気がする。テントのむこうにヴィーヴルがいる気がする。蹴り倒した相手の顎にヴィーヴルが潜んではいないか。鏡の中に。すごく頭がくらくらする。聴いたことのない歌声が聴こえる。水晶を砕いた時のような音がする。喉がやけに乾く。ヴィーヴルを探さなくちゃいけない。触れられた痕は見えない溶岩たまりとなって俺を焦がし続けている。月の光を浴びれば治るのだろうか。言葉がほどける。這い伸びてくる木の蔦のようなヴィーヴル触手。
ヴィーヴル光線。

ヴィーヴルはそこにいる。今も俺の事を見ている。俺の裡にいて俺に対してメッセージを発している。エンブリオとして契約したあの日から。俺はヴィーヴルになりたいのか。ヴィーヴルになりたくないのか。

曲がり角の向こうにたけのこみたいな影が見える。
決着をつけなければならない。