Side:C 独りの世界

　人一人寝転がれる程度の大きさの長テーブル。そして、大量の椅子が無造作に置かれていた。三つの窓が壁に備え付けられていたが、全てがベルベットの赤色のカーテンにしめきられ、光がすっかり遮断されてしまっている。よって、真っ暗。微塵の光すら感じられない、とある兵舎の一室。

「あ——」

　テーブルの傍らに置かれた背凭れつきの椅子を一つ失敬。丁度、木製のテーブルに顔を埋める様な形。上半身をすっかりテーブルに投げ出していた。つつましい胸部が圧迫されて苦しい。

「……最悪」

　砂糖の塊を口にした後の様な、胸部の不快感。吐き気。脳みそを直接揺さぶられている様な、酷い頭痛。


　紛う事無き二日酔いの症状。


　腹の底から呻く様に吐いた。のたまった。
　初めは出来心だった。兵舎に向かってからミィナやシトロン達と逸れ、そのまま日が暮れてしまうと来る。戻る訳にもいかなかったので一先ず隠れ場所として酒蔵を選んだ。
　……そこに栓がわずかに開いている酒の香りがあったのがいけなかった。
　一室の付近はしんと静まり返っていた。心地の良い静けさ、真っ暗闇。空間。これでも幾らか不快感も頭痛も収まってきた方なのだ。だからこそ、ぼやける。嘆ける。
　実の事を言うと、顔を上げる余裕とてある。ただ、上げるのが億劫だから。テーブルの冷たさが脳みそに心地良いから。こうして、人の目が無い事を良い事にぐでんぐでんに緩み切っているだけであって。
　シャツワンピがだらしなくしわになり、ジャケットは肩からズレていて、骨色の肌が露出している。傍らに置いた帽子はぺちゃんこに潰れている。
　段々と、自己嫌悪の波が押し寄せてきた。死にたい。
　テーブルに頭を押し付けていた所為か、些か乱れてしまった薄紫色の染髪を乱暴に撫で付ける。
　塗料の馴染んだ髪の奥、真たる銀色の髪は酒に酔った己の様に赤い。
　体感時間が麻痺してしまうのは、堪えられそうにもない。

「…、　…うー……うぇ」

　やがて明け方に迫る刻限に差し掛かった頃。緩慢な足取りで立ち上がる。吐き気を抑えながら、彼女は外へ出た。

足元に潜む影と対話する

こっそりそう思うシトロンであった。

背中から生えてきた蔓に感嘆の声を出し、そして先ほどより喜びの色がハッキリと見えた。

本をいろいろ見ている…。

何か思い出したくない事があったようだ。

ヒュンヒュン