ヴァルキリー戦を終えた後…

普段と様子の違うオルヴァがそこに、いた。


………

　「シアの意思……確認させてもらったから。」

少し改まった表情で、シアとまっすぐ目を合わせる。
…死にたいとか言い出したらどうしてやろうかと思ったけど。
と、続けて不穏な笑みを浮かべた。

はは…；
手厳しい一言に苦笑しつつ…でも、考え抜いた結果を認めてもらえたみたいで、少し嬉しい。

　「ヴァルキリーの力で…エンジェルとしての力を書き換えた。」

　「少し…馴染むまでは、時間がかかるけど」

驚く私をよそに、オルヴァは大した事ない、という素振りで淡々と告げた。
エンブリオの常識は私にはわからないけれども、姿や能力を変容させるってことは
負担がかからない訳が無いと思うのだけれど…
混乱する私を制すようにして、さらに続ける。

　「びっくりさせてしまったけど、質問は後で。」

ふわり、とオルヴァのまわりを光が包み込み、
私は慌ててあたふたとネクターを取り出す。

──英雄の遺志とあなたの決意を認めます。

貴女と、貴女が守りたいものの為の力になりましょう──


……なんだか、じーーんとしてしまった。
そういえば、初めにオルヴァと契約した時は、意識が無かったんだった。
改めて、何かがつながったような感じがした。

………

（そんなブツを人に差し上げないように）

（突っ込みに大しては）

（いや、簡単な料理位は出来るようになってください←…。）

───部下を置き去りに退却するラケルトをげんなりした顔で見送る…。

ああいうのは…上司にしたくないな…と兵士たちに同情を感じた、その時。
倒れ伏す兵士の影から、ゆらりと浮き上がるように、何かが現れた。

新手か…！と身構えかけ、その見覚えのある姿に、驚きつつも緊張を解く。
がその瞬間、

───鋭く、強い、殺気。に、思わずビクリと体を硬直させる。

掠れた声が、響いた。

　「…流石にこんな木偶では使い物にならぬか。」

兵士たちを一瞥し、シア達の方へ視線を向ける。

　「……小娘…久しぶりだな」

───鬱陶しい天使の力が弱まったかと思えば………より強固な守護になったとは。

「それ」を他に奪われる訳にはいかぬが
忌々しいことに小娘を守る力……一筋縄では行かぬ。
……まあいい。ならば、一石を投じてやるも一興…


───精々、足掻くがいい。

───「影」に、告げられた言葉を思い返す…。


　「預けた「芽」を返してもらいたいのだがね、
　　貴様の守護者様が…その肩に植えた「芽」、諸共に
　　貴様を大事に護っているようだ」

　「まだわからぬか」

　「貴様が子を産めば、「芽」は力として子に継承される…魔王の子に。」

青ざめた顔で首を振る。
そんな事は…許さない……させない…

　「ならば半身を切り落とすか？それでも良い。
　　わざわざ「芽」を守護下から放してくれるというのならば、有難い」

シアには全く関心が無い様に「影」は言葉を継いだ。


　「…しかし、残念でならぬな」

ギリッ…と奥歯を限界まで噛みしめる音とほぼ同時に、シアの武器が空間を薙ぐ音が響いて……その一瞬の間に、「影」はその場から姿を消していた
嘲笑うように掠れた声を残して。

　「貴様が、魔王の子を産んでくれるのを楽しみに待たせてもらおう」

………