何故、坊ちゃんを肩車しているかというと、肩車する少し前に練習試合をして私が負けたからだ。
負けた方が勝った方の言うことを一つ聞く、というルール。
そして坊ちゃんが望んだのは「肩車してほしい」というものだった。

「せっかく僕のお願いなのに…自慢しに行ってもいいじゃんか」
「この城内のエリアすら制覇するのに何日もかかっているんですよ？それを自慢しにそれぞれの場所へ行っていたらそれだけで三日はかかりますよ」
「うーん…それもそっかぁ…。——あっ！」
何かに気づき、迦楼羅は声をあげる。
「あれ、あの木！あそこまででいいから歩いてよ！」
指さす先には一本大きな木が立っていた。
「…まあ、それならいいですよ」

そこそこの距離、自慢しに行けずともあれだけ歩けば坊ちゃんも満足するだろう。
たどり着くまで終始機嫌良さそうに、あれ見て！だとか、あっちにあれが見える！だとか言っていた。
それにしても相変わらず軽い。肩車はしたことがなかったように思うが、持ち上げてもいつも軽いと思う。
成長しているのだろうか。
坊ちゃんのいつも見ている視界からすれば、私が肩車した視界は開けて見えるだろう。
そう思うと気分もよくなるのだろうか。
などと考えているうちにあっという間に坊ちゃんが指した木までやってきた。

「この辺まででいいですか？」
「んー、もうちょっと前」
「…前？」
見上げれば、歯のこすれる音。背と手を伸ばしてがさがさと何かをやっているのが聞こえた。
なかなか木の葉に手が届くような体験もないか、と思いながらグノウは迦楼羅の手が届きやすいように少し前にいく。
「…！もういいよ！」
その言葉に膝をつき迦楼羅を下ろす。下ろしたあと、ため息一つつき首を回した。
（……疲れた）
首を押さえ回していると
「はい、グノウ」
という声が聞こえた。振り向けば手にはリンゴが一つ。
「今ね、木からとったの」
「……」
見上げれば決して多くはないが、いくつかまばらになっているのが見える。
「たのしかった！またやろうね！」
「……、そうですね。まあ、考えておきます」
リンゴを受け取り、ため息混じりにそう言った。だけど、ほんの一瞬だけその口元は笑んでいた。













「ねえ、グノウのお願いってなんだったの？」
「それは"私の願いを教えてほしい"という坊ちゃんの勝利後のお願いということでよろしいですか？」
「えっ？」
「それでいいならお教えしますよ。私の願いは—」
「あーっ！！だめだめ！言わなくていい！」
「そうですか」

いつもの小言だと思ってぼそりと呟いた。

ぐすぐす、と鼻を鳴らしながら、カップケーキを受け取り目を輝かせる。

プルはもりもりとカップケーキを食べ始めた。

ぺこりと一礼。そしてまたカップケーキに夢中になっている。

行動派、と聞いて少し首を傾げる。

少し調子を上げて、どこか楽しそうに話す。

どう説明したものかと、目が泳ぎまくっている。