今から、イルヤナさんという方との、戦いが始まります。
先に行きたいボク達と、どうあっても通すわけには行かない彼との、戦いになります。

つい先ほど、イルヤナさんは、理不尽だと言っていました。
ゴンザブロウさんでしたっけ、名前すらあんまり覚えていませんが押しの強い方が、
相手の話を聞かずにゴリ押しした結果、戦いになったのも、分かります。
本当にこの先には、一揆に関係するものは何もないのかもしれません。
だとしたら、イルヤナさんは単なる被害者以上の何者でもない、です。

でも。
そんな事は関係なく、ボクは先に行かないといけません。
この世界では、人に渡せる行き先がある事もまた、力の一つになるのですから。

勿論、力を得たところで、ボクにできる事なんて限られています。
何か特別な事が、できるというわけではないのです。

他の方がどんな力を得ているのか、全部を把握できているわけではないですが、
例えば、美しく勝って、高らかに革命を宣言することができたり、
違う意見の人を力で無理やり従えて、我等が法である、と言い切る事ができたり。
一揆をする方々の中にはそういう特別な方々がいるようです。

おそらく、王様との物語を紡ぐのは、そのような方々なんだと思います。
ボクがそういう人になれないのは、ボク自身がよく知っていることですし、
そのような力を持った所で何になるんだろうという、気持ちも抱えたまま、です。

となると、実際のところは、力なんて、無くてもいいのかもしれません。
居場所を自分で確保できるぐらい、素敵な人だったら、要らないんだと思います。

でも、ボクには、居場所を確保できる能力や、魅力があるわけではありません。
昔からずっと無かったのですから、これから生み出せるとも思えません。
だから、居場所は無理やり確保するしか、ないんです。

とにかく、ボクは力がほしいんです。どういう種類のものが必要なのかは、
ボクもよく分かってないですが、何も持ってない事で、要らない子になりたくないんです。
お役に立つ物を持っていないと、独りぼっちのボクなんか、誰も相手にしてくれませんもの。
あの時ボクが選ばれなかったのは、きっと、そういうことなのですから。

頑張ります。全力で戦って、イルヤナさんに勝つんです。
無様でも、美しくなくても、最後まで倒れず、先に行くのです。
まだ誰も通ったことの無い、道を切り開くのです。自分の力で生きていく、そのために。

…だから。

ゲッシュンの体がみるみる人間の子ども程度の大きさに変わっていく。
トカゲ特有の鱗は消え、髪の毛が生え、姿は完全な「ヒト」のそれになる。