ミラルカ・ハウダニットがそう叫ぶと、辺り一帯に漂っていた亡者共が眩い極光に包まれ霧散していく。

　不死の王に呪われ、創られた闇が言葉にならない叫び声を上げ、祓われてしまう。
　しかし周囲に漂う影は今も尚濃く、次々と新たな闇を生み出している。

　生まれた光により煌めく銀鞭を力任せに振り回し、亡者の山を打ち壊し。
　それでも止む気配のない死者達の影に、ネロスフィーネ・アバドは溜息を吐いた。
「キリが無いわね」

　ネロが仲間の様子を伺うと、飄々とした様子で口笛を吹いているレーネフィア・ディ・ステラが。
「——〜♪」
　舞台上で踊るようにくるくると回転し、赤い瞳を揺らめかせるレーネ。
　すると突如として、その場に存在していた死者達の軍勢の動きが緩慢になる。

　見ると亡者の足首は凍り付き、身動きが取れなくなってしまっていた。
「くす」
　嗤うレーネ。
　肩に掛けた、身の丈よりも巨大な鎌を手に取り——

「脆い。」
　——亡者達の脚を、一瞬にして刈り取った。
　脚を失くし、まるで傅くような格好で藻掻く亡者。

　次の瞬間、頭を垂れる亡者の首は、レーネの鎌により飛ばされていた。


　　　　　　†

　亡者の軍勢を殺していくレーネを尻目に、自身の手首を切り裂くミラルカ。
　ぼたぼたと垂れていく血液は魔力によって光に変化し、辺りを包み込んでいく。

　何かに取り憑かれたかのように光を放っている。
　すると辺り一帯が、ミラルカの魔力で満ちていく。

　ネロは二人の様子を見ると、満足気に鼻を鳴らす。
　既に影を遮る亡者は首を斬られ、影を覆い隠す闇は光によって祓われた。

　既に赤く染まった銀鞭を、勢い良く伸ばすネロ。
「——捕まえた」
　鞭は影へと絡み付く。
　闇の中から、引きずり出される影。

　すると辺り一帯の闇が濃くなり、光が朧げになっていく。
　絶大な力を持つネロであっても、あまりに膨大な影の力の前に一歩、また一歩と鞭を緩めていってしまう。

　空気が冷える。
　漸く掴み取った死者の命は、再び生も死も無い闇の中へ還ろうと目論む。
　ミラルカが何かを叫ぶ。

　このまま不死者は倒れることなく、逃れられてしまう————そう感じさせられた、刹那。



「ご主人様のスピードに、ついてこれますか？」

　あまりにも軽妙な、緊張感の欠片もない声が響く。
「もう終わり？」

　そう言った声の主——“ご主人様”こと、アルバード・ノエル。
　ネロの事前に用意していた『切り札』が、影の頭に銃を突き付け、弾丸でブチ抜いた。

　消失していく影。
　辺りに消えていた火が灯り、ネロ一行の他には誰も居ない地下牢へと戻る。
「はい、おしまいっと」
「大勝利です！　いぇい！」
　思わず、そんな喜びの声が上がる。

　光の挿し込む地下牢。
　髪色が鮮やかな紫色に変わったミラルカが、そこには佇んでいた。

不服そうな、困惑したような様子で少女は問いかける。

そこまで言って、ふと止まる。

もしかして聞かない方がよかったのか。
不安になった少年だったが、答えを聞けてほっと胸をなでおろす。

難しいと付け加えて、少年は顔を俯かせた。