（Eno.1231 リヴァラン＝イブリスの日記から）

ずいぶん長いこと走っていた馬車が止まって、リヴァランが荷物を取りに来た。
ということはようやく目的地についたのね。
息をひそめてリヴァランをやりすごすと、わたしは移動中に準備しておいた隠行術式を起動する。

術式が起動してすぐに外に出飛び出して、あたりを見回したけどリヴァランの足音もしなければ、姿も見えない。
見つからないぐらいには十分に待って、でも見失わないぐらいには急いで馬車を飛び降りたのに？
それどころか、人影が見当たらない。

あたりをきょろきょろと見回す。

物陰から物陰に移動しながら様子をうかがってみるけれど、リヴァランのものどころか人影はない。

それなら、なんとなく納得がいくし、術式を使っているのに実は見つかったとも考えたくなかったからそういうことにしておいて、失せ物探の術式できっとここに居るマリア様とリヴァランの痕跡を捜してみようかな。

本当に消えてしまったわけじゃないことがわかって、少しだけ安心したけども、ほんの気休めで正確な位置がわかったわけじゃない。
でもとりあえず、奥へ進もう。

気持ち悪いぐらいに人の気配がしないけど、そうたびたび術式で確認するのも難しいのでふと、思いつきが口に出る。

ラスニールは意外にも、割と手助けはしてくれるけどそのたびに血だったり、魔力だったりといろいろと代償を取られてしまう。
でもその力は確かなので、助けてもらうことも多いのよね。最初は妖魔種を狩らせろって言われてたけど、ヘリヤを差し出すこと
なんてできないし、そう都合良く居るわけもないから、こうしてわたしの血だったり何かしらを渡すことになるのよね。

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数分、ラスニールを抜き身で持ったまま言われるままに歩を進める。

いそいそと足を速めて開け放たれた大きそうな部屋の扉に近づいたとき、ありえない単語が聞こえる

あまりの事に止まりそうになる足をなんとか運んで部屋の中をのぞき込むと、マリア様を守るようにリヴァランが居て、軽装の鎧に立派な衣装を身につけた騎士と向き合っていました。

簡単な引き算でわかることを理解したくなくて、わたしはそのままそこに立ち尽くす。

目の前で騎士とリヴァランが何か大声で会話しながら戦っているけど、あまりの事に耳に入らない

目の前の理解してはいけない会話について行けなかったわたしは突然、目には霞がかかり心の中で膨れあがる暗闇を見ったような気がする。

夢か現か、心の奥を締め付けられるような感覚が過ぎ去ると、叫び声を上げようと思った私の口は、喉はもう動かなかった。

わたしの体が勝手に動いて部屋の中を改めてのぞき込むと、いつの間にかもう1人の女性が空中に呼び出した短剣でさきほどの騎士を滅多打ちにしていた。
思わず息をのみそうになったけど、それすらもできない。どうなっちゃってるの？

一段落したリヴァランが気を緩めたその瞬間、わたしの体はすっと床を滑るようにリヴァランの死角からマリア様へ近づくと2歩手前で立ち止まり、腰を落として鞘のないまま居合いの構えを取る。

すべてを言い終わる前に、一瞬で魔力を膨れあがらせたわたしはマリア様の手前の空間を一閃。いとも簡単に結界を切り飛ばす
弾けるような音に気がついたときにはもう遅い。
瞬歩で跳ねるようにマリア様の懐に飛び込むと、ここ最近の戦いでなれた、気持ち悪い感触が伝わり、次の瞬間歓喜する。

ラスニールの刀身が

マリア様の

胸のまんなかに

すっぽりと飲み込まれていました。


（Eno.667 マリア＝イブリスの日記 第21日へ続く）