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「………」

唐突に目が覚めて、身体を起こす。
正確な時間は分らないが、遠くの空が僅かに明るくなりかけているのが見えた。

（今のは——）

夢、だったのだろうか。
けれど脳裏にこびり付いたイメージはそれを否定し、強く『現実』だと主張していた。

（夢でも私は、私が殺した事に納得していた。違和感なく、真実として。）

「………私が、殺した………」

声に出した瞬間、胃からせり上がる何かを感じて咄嗟に口を押さえる。
直後、心臓は強く脈打ち、視界は明滅し、全身から冷たい汗が噴出する。押さえる手も僅かに震えを感じた。



———どれほどそうしていただろうか。
やがて、脈拍もゆるやかに戻っていき、落ち着くために行った深呼吸に酸の味を感じて咽る。



ゆっくりと、ベッドに再び横になる。

「カディエ」

あの時で残った記憶で、唯一明確に覚えている存在に声をかける。
しばらくの間を置いて出てきたその姿は、今までとは違う何かを感じた。

「……私が、殺したのね」

二回目の言葉に動揺は無かった。
淡々と、事実として流れ落ちる様な感覚。

『殺した』

虫を潰すように？鶏を絞めるように？兎を射る様に？鹿を狩るように？

まるで解りはしないが、解れなかったが、殺したのだ。と。

ああいや、解る必要なんて無い

【死】は【死】だ。それ以外の何物でもない。
後に残るのは、亡骸と何時まで残るかも判らない思い出だけだ。

「私が……殺したんだぁ……ハハ……あはははは……あっはははははははは、ははは、アハハハハハハハハハハハハ！！」

泣けもしなかった。

じっとこちらを見つめるカディエの前で、
私はじわじわと首を絞めつける恐怖と罪悪感に狂ったように笑うしかなかった。


「———ハハハハハハハ！！！……ハハ……は……………ぁ……ァああアアアアアアアアアアアっ！！！アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！！！！！あああアアアアアアああアアアアアッッッッ！！！アアアアアアアアアアアアアアああアアアアアアアっアアアアアアアアアアアアアアアアああアアああアアアアアアアアッ！！アアアアアアアアアアアアアアアああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああアアアッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！！！！！！！！！！」

一頻り笑い終わった後に残ったのは、激情だった。
何も分からないまま、ただ胸を抉る様な痛みと共に感情が爆発した。

ガリガリと頭に爪を立てる。
歯がガチガチと音をたてて震えていた。

「どうして！！？　どうしてっ…！！！どうしてどうしてどうしてどうして！！！！！！！？？？」

どうして、私が、皆を殺したの？

分らないのに、ただ【殺した】という実感が頭を掻き乱す。


そこに


もう、いいかしら

「……カディ……エ……」


氷のように冷めた言葉が投げられた。


思い出したようね

「………」

どこまでも冷静なカディエの言葉に、激情は悪意になり、悪意はやがて———


けれど、まだ足りない

「………え」


まだ、貴女は思いだしてない

「カディエ、貴女、何を言って」


十字は掲げられた、生贄を捧げるその意味を

「答えてカディエ！！！！！貴女は何を私に—————」




思い出しなさい、生贄を捧げたその目的を




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「………朝、か」

窓から差す日の光で目が覚める。そろそろ、他の皆も起きはじめるだろう。


「痛っ」

痛みに咄嗟に手を押さえる。

掌を見るとうっすらと爪痕が残り、一部が出血していた。


（いつの間に、こんな傷————）


「……カディエ、ちょっとその赤い箱取って」

はい、これね


「ん、ありがと。　……ねぇ、カディエ。」

何？


「————……いや、何でもないよ。朝ごはん、作りに行こ」

ええ、頑張りましょ

妖精を連れて行ってしまった女性のことを思い出して、少し首を傾げました。
ですが、二人を追っかけたり、ノノを心配したりはしません。

ノノはエンブリオのように活動していますが、その根っこは妖精。
そもそもの存在の根源がおかしなことになっている、世界の誤作動みたいな存在なのですから。


***？？？***

厨房の中で目を覚ましたノノ。
かごの中からキョロキョロと厨房を見渡したり。

そう、カレーの材料を切っているからといって、カレーを作るとは限りません。
その材料をそのままに、シチューや肉じゃが、ほかにも無限の料理の可能性が存在するのです。

そわそわしてます。超そわそわしてます。

はげしい葛藤と戦うノノ。
カレー妖精の衝動と、リレッタさんとの約束の板ばさみに苦しんでいます。



そのとき、ついにリレッタさんから声をかけられました。

『ノノちゃんはどうする？』

その一言こそノノが待っていた、スタートダッシュレッツゴーの一言。

次の瞬間、開いた蓋の隙間へと、黄色い閃光と化したノノが飛び込んでいきました。


とぽん、と小さな飛沫が上がります。
そして鍋の中身は、みるみるカレーと化していくのです。

そう言って笑ってみせる。個人レベルの通話なら無線機などでも十分な気はするだろう。

その言葉通り、エミリーが目の前に手を差し出すとヴンッ、と彼女の手の上が一瞬ブレたかと思えば手の上に直方体の硬い物体が3つ…砥石が乗っていた。

なにか察したらしく慌ててフォローに入った。

無言で巨大な中華包丁を握っている……。