雨季の突発的なスコールの中、厚手のレインコート代わりの上着を傘に、市場の大半がテントから付近の屋内へ走りこんでいる中、パシャパシャと音を立てながら中央を走る。

「は、　まったく不意打ちだったわね……　っと、ごめんなさい。」

軒の下は先着順、とは言え猫は文句は言わない。
小さくニャアと鳴き声を飛ばして一人分横にずれてくれた。


（ええっと、まだ買ってなかったのは……）


ポケットから取り出したメモもかなり濡れて滲んだが、おおまかに判りさえすれば覚えている。

確認するとそのまま、路地を抜けると手配書の少ない通りへ抜ける。
軒下を飛び移るように、走っていけば、少し冷えた身体の客を相手にやり手の販売人が少しだけ割引して串焼きを売りさばいている。

少しばかり視線をとられたけれど、そのまま行列を突っ切るようにして奥へ奥へ。

紙類を少し買い足したかったけれど、今日は延期だ。

右、左、もう一回左でスラム街へ。
人通りの少し減った暗黒街の中で、少しだけ小綺麗な店の横手の小さなドアを押し開ける。

ガコンと箍が壊れるような音がしたけど無視して後ろ手にドアをしめる。
裏通りを抜けた短い時間で慣れた目に雑多な店内と視線を外した小汚い店主が映る。



「……アー、嬢ちゃん”透けてる”ぜ？」



無言で中指を立てて、対価とメモを突き出した。

ふと、何かを思い出したように煙草を捨てて踏み消す。

土煙に包まれながら、シュウスケは思案する。

何とか”余波”をある程度かわすことができたが、初撃と、避けきれなかった分のダメージが身体に響く。

周りは見えない。土煙により、敵の場所も、現在の位置も、確認するには難しい状況である。


…だが、見えなくとも、聴こえていた。

ある方向から、荷馬車の走る音。

感覚を研ぎ澄ます。

風の流れ、音の方向。そして、相手の気配……

呼吸を整えると、シュウスケは意を決したかのように、音の方向へと足を踏み出す。

刹那。

風の流れを読みとったシュウスケは、風の妖精フィリアスの力を得た強化外骨格を見に纏い…

さながら一陣の風の如く、高速で走り始めた！

グレネードを握ってストレートする素振りをしてみせる。……ストレート？

逆ギレだ！！

空の食器の中に、匙を置くと水を口に含む。

屍が城を徘徊する、と言う言葉に首を傾げると
小さく笑みを漏らした。

ネイベールは、いつの間にか用意したのか、
紙フキンで折られた花をリレッタの前に置き、
手を振り 装飾を揺らしながら店から出て行った。

紙で折られた花の中には、ガラスか 将又 輝石か。
水色の小さな玉が、数個入っていた。

薄っすらと血の付いた得物を振り払う……。

（目をあけたままねむっている！）