シュガーたちは再び砂地への進行を開始した。前回の進行時に破れた砂地の敵との対戦に備え、シュガーはとっときのまんじゅうを食らって魔力を高める。砂地を進行すること数刻、太陽が分厚い雲に覆われ、砂塵舞う嵐がやってきた。パーティメンバーと陣形を組んで嵐へと突入する。嵐の中には怪物達がシュガーたちを待ち構えていた。

シュガーたちは打ち合わせ通りに、前衛で壁となる怪物達は後回しにし、中衛にいる道連の呪い持ちのミイラから先に攻撃を行った。シュガーたちの魔弾に貫かれたミイラから、影のような呪いが溢れ出てシュガーたちに降り注ぐ。しかし、道連の呪いは距離によって減衰するという性質から、呪いによる鋭い痛みが胸に走るものの、その日は膝をついたりはしなかった。呪いに耐えきったシュガーたちは怪物達を各個撃破し、嵐が去る頃には砂地の進行を成功させていた。

勝利したシュガーたちであったが、しかし、パーティの損耗も小さくなかった。また、パーティメンバーの中には日毎に続く進行に疲弊してきており、パーティ内には一揆を疎む雰囲気が出始めていた。パーティは城へのさらなる進行をあきらめて、補給と休養を兼ねてパーティは一路大草原へ向かうことにした。

城を横目に草原へと向かう。そんなシュガーの耳元に、今日も今日とて冥府の声が聞こえて来た。春が訪れた風に揺れる草花を思わせる、そんな軽やかな声であった。

そうこうしている間にパーティは大草原へと辿り着いた。陽光の下でみずみずしい草地が彼方の山岳地帯まで広がっている。シュガーたちは一揆参戦者の幕営地まで歩き、そこで一泊する事にする。今日は水辺や砂地のような冷たい地面の上ではなく、ちょっとだけふかふかな草の上で寝る事ができる。幕営地には商店が出ており、一揆の参戦者に食料などの物資を売買しているようだった。せっかくなので、今日はごちそうでも食べてゆっくりしようなどと思うシュガーであった。

シュガーは食料調達に商店を覗いてみる。アニマもちょこちょことシュガーの後をついてくる。商店にはトマトやジャガイモといった生鮮野菜、小麦や落花生などの穀類、チーズやヨーグルトといった加工食品、げそや蟹味噌といった海産物、様々な食材が並べられていた。おむすびや豚汁やカレーなどで食事もできるし、コーヒーやソフトクリームで一息つくこともできそうだ。ソロで活動する参戦者などはパーティ内に料理スキルを持たない者も多く、こういった商店で食事をすませる者も多いらしい。

シュガーが店内に入り、品定めをしていると、食事中の他の参戦者がメルンテーゼのホワイトデーの風習について議論をしていた。曰く、この辺りでは、ホワイトデーにルリアンナさんにPSを貢ぐ風習があるらしい、というのだ。耳を疑う言葉だったが、どうも、貢げるPSは1から10000PSまでで、所持PSが貢ぐ額に満たない場合、PSはマイナスに突入し、PSがマイナスの間はパーティを結成できず、「農作業の手伝い」しかできなくなるそーなのだ。しかし、貢いだPSの量によってすごいアイテムをゲットできちゃうんじゃないか、とか、PSの多寡は関係なくてただ一揆の軍資金の徴収に違いないぜ、とか、いわゆる私腹を肥やすためにメルンテーゼの風習に疎い一揆の賛成者をたばかっているだけだ、全くルリアンナ嬢の腹黒さにはびっくりだぜ、とか色々と議論は白熱していた。

シュガーはアニマに尋ねてみるも要領を得なかった。シュガーもアニマも首を傾げてみる。風習とはそういうものなのかもしれないが、何のための風習なのかよくわからない。そもそも、１人の女性に男女問わず金銭を貢ような風習が、そもそも風習として成立しているのかどうなのか、税金みたいなものなのか、シュガーはうーむと考え込んでみるものの、うまい具合の解釈には辿り着けなかった。まあ、メルンテーゼは色々とカオスなので、深く考え込んではいけないのかもしれない。

シュガーの興味に好奇心をくすぐられたのか安徳帝の霊の声が聞こえて来た。シュガーは奥歯を噛みしめてあの世とこの世をつなぐ術式を履行すると、安徳帝の霊が燃え盛る鬼火と共に夕暮れ間際の草地に立ち現れる。シュガーも一揆の参戦者のうちの狼藉者が城の調度品を略奪しているとも聞くし、その行く末には不安を感じないわけではない。

しかし、安徳帝の霊にとっては、そんな一揆の行く末よりも、もっと気になることがあるらしかった。安徳帝の霊はビシリとアイスクリームのノボリを指差す。

アニマも物珍しい冷菓に興味津々といった様子だった。

シュガーはしかたないなとため息をつき、それでも、アイスクリームを２つ買う。アニマを伴って空いたテーブルに座り、アイスの１つをアニマに渡し、自分はアイスクリームの皿をテーブルに置いて印を組んで何事かの呪いを唱えた。

アニマは生まれて始めてであろうアイスクリームに感嘆を禁じ得ないようであった。

シュガーは神々の例を挙げて説明を続けた。神々はこの世の食べ物を口にすることはできないが、その食べ物を作った人々や捧げた人々が積み上げた功徳を味わうことができるのだ。だから、シュガーが買ったアイスは安徳帝の霊へのお供え物であり、それで十分に功徳を味わえるというわけだ。

そう言ってシュガーはアイスをスプーンですくって口に含む。アイスの甘さがじんわりと疲れた身体に染み渡る。うめぇ。犯罪的（なうまさだ）だ…シュガーも愉悦のあまり感動してしまう。

そんなシュガーの様子を安徳帝の霊は優しげな笑みを浮かべて見つめていたし、そんな安徳をアニマは不思議な様子で見つめていた。時は日の暮れかけた黄昏時、浮き世とあの世が交わる一時のことであった。

シュガーは怨霊と会話をしているようです

ハチェットのカバーを外す。硝子の青い目が揺れた。

シュガーは怨霊と会話をしているようです…

シュガーは怨霊と会話をしています…