言いながら、頬をなでる。たしかめるように。
彼の頬は熱くも冷たくもなく、その手触りと眼前に映る白い姿がなければ、
触っているかどうかさえわからなくなりそうだった。

まるでほどけるように、彼を呼んで。
けれどまとまらない、探ることしかまだ出来ていない思考は、
彼の言葉にはらはらと散り、自然唇はとざされる。
彼の言葉に聞き入るために。
その、何も読めない真っ白な目が瞬くのを覗き込もうと背伸びしながら。
また、唇がためらいがちに開かれる。

言いかけて、唐突に口を閉ざす。
それだけでは飽き足らず、彼の頬から手を離し、逆に彼の手を取って、その白く大きな手で、己の唇をふさごうとする。
それはもう、知ってしまっているから。
今、口にしかけた名が、もしも彼の《ほんとうの名》であったとしたら。
それを呼ぶことは、彼という存在に害をなすということであると。
だから、幼い魔女としての本能——好奇心と探究心——が彼に刃を向けてしまうことのないように、と。
頼りにならない己の自制心だけでなく、彼の助けも借りんとして。
その、白く暖かくも冷たくもない指を、己の唇への枷…否、錠前としようとした。