燃え盛る炎は次第に勢いを弱めた。
魔神ベルフィと名乗る少女の呆れたようにこちらを見る表情が印象に残っている。
今思えば、彼女自身は更なる力を残していた気もするが、恐らくは"納得"してしまったのだろう。

　世界一つを終わりにすることは、もしかしたら容易くとも。
それに抗う人の意志を挫くことは容易では無いと。

　私はそんな彼女の、超越者たる存在の様子を見ながら、消えゆく炎の力を結晶に封じた。
それを彼女は気付いていただろう。
しかし、黙認してくれた（もしくはどうでも良かったのかもしれないが）事には感謝したい。

「グレン。
　魔法が存在しない分割世界ではな、魔法と言うのは想像の産物なんだ。
　魔法は実在しない、夢の力だと。」

「まあ、そうなるだろうな。…そういう世界もあるのか？」

「幾つかの分割世界を私は知っているよ。
　魔法が存在しない、というよりも極端に魔法の力が稀釈な分割世界と表現した方が良いかもしれないが。」

「ふぅん。それで…？」

「そういった分割世界では、魔法は無いものとして認識される。
　ただ、我々のような魔法を身近に持つ世界の出身者には驚くべきことかもしれないがね。
　それはもしかしたら、奇跡も同様なのかもしれない。」

「……。」

「神に等しき上位者の持つ"奇跡"…世界の法則さえも捻じ曲げる力。
　それらは、我々にとっては『無い』のかもしれないが、上位者にとっては『有る』のだと。」

「気休めの心算か？ まったく、最後までオマエはそんなんだな。」

「悪くはあるまい？ オマエさんは、少し悲観過ぎるからな。これくらいで丁度良いのさ。」

ふらふらとしながらエンブリオアニマがグレンの元へとやってきた。

少しばかり息切れしたのか俯き、暫くしてからグレンの方を見る。

そう言うとヒルダはその場に座り込んでしまった。