「がう、がぁぅ」
「ぐるる…」
「はいはい、いい子になさいな。順番よ」

サダクビアの面々が思い思いの時間を過ごす中、白の集まる一角があった。
数頭の真白の虎の中心で、足元にじゃれつく虎をなだめていく。やれ困った、じっとしていてもらわないことにはどうしようもないのだが。

「こーら、その辺にしとけ」
「うむ、嬢やを困らせるでないぞ」
「あらありがとうご主人達。もうちょっと早く声をかけてくれるともっと助かったわ」

それぞれの虎の主が己の従える虎に声をかけ漸くじゃれるのを辞めた虎の頭を撫でてはその首に組紐を結わえていく。
スーノの虎には深い夜の色を。
イリーシャの虎には雲間草と同じ色合い、白と淡桃の花結を。
フィーの虎には透き通る氷と同じ淡青を。
ラザラスの虎には木漏れ日越しの木の葉、深緑を。
己の虎には名と同じ、雪と同じ白銀を。
それから、


「エル」
「…なあに、レイさん」
「ちょっとこっちにいらっしゃい」

声をかけた相手が意外だったか、何人かが目を丸めたが気にしない。
数日前からしょげ返っている少年を呼び寄せると、素直に近付いてくる彼の腕に抱かれたぬいぐるみに手を伸ばす。
腕が緊張したのが判る。

「抱っこしたまんまでいいわ」
「……」

それだけを言って少年の前に片膝をつく。
常よりも覇気がない少年は瞳に困惑を浮かべて、——その目を丸くする。

「……レイさん」
「はい、出来た。『みんな』にだから。この子の分よ」

そう言って少年の肩を一度叩いて、何か言われるより先に作業場とする一角へ戻る。
どういう反応が来たって、むず痒いことこの上ないのだから。


仔虎のぬいぐるみの尾に、蝶結びにされた組紐が揺れる。
それは少年の目と同じ、真昼の晴れ空の蒼。

（手袋を着用する

（ぎゅ、と衣を抱きしめる）