あの人間に似た醜悪な化け物（ゴブリンと言うのだったか）は「オウサマは我々のキボウ」と言っていた。我々の希望とは、どういう事なのだろう？

　暫くこの王城の敷地を進攻して解った事がある。ここで見かけたのは、今のところエンブリオを除けば、殆どは獣か、先ほどのゴブリンのような人間に近い化け物だった。純粋な人間に見えたのは、水浴びをしていた兵士と、地下牢への入り口を護っていた女くらいだ。
　王は城外の住民から生活の基軸となるネクターを剥奪しながら、化け物達を城内で庇護し、利益を約束しているわけだ。これも恐らく住民からの反発を加速させている要因の一つだろう。
　そもそも、メルンテーゼの生活に深く根ざしていた物を何の理由も無しに独占するとは考えづらかった。気が触れたのでなければ、何かそうしなくてはならない訳があるはずだ。この世界のほぼ全ての民からの反発よりも尚優先しなければいけないような何かが。

　しかし、化け物の保護がその理由に足り得るとは思えなかった。
　判断をするには情報が足りていない。ルリアンナでもなく、王政側の兵でもない、他の情報源が必要だろう。

息を吸う、息を吐く

鎌を揺らし、切先を、自らの影に降ろす