「デリフィーン様…まだお眠りになられないのですか？」
「アレクセイ、熊を数えても狼を数えても全く眠たくならないぞ。何か眠くなる話をしろ」
「…はぁ…では、昔話を致しましょうか」
「昔話？…それで良い」



昔昔、
リンテントポーゼの領主には美しい七人の娘がおりました。
皆、美しいだけでなく聡明で、星の様に眩い自慢の七姉妹でした。

男の子はいなかったので、領主は長女を後継ぎにするつもりでした。
しかし、ヴィエスナ・クラスナは契約はジヴィーテの男子とが前提だとし
女子との契約に難色を示したのです。

「わがままだな？」
「何分、女子の後継ぎはその時が初めてでしたから」

ヴィエスナ・クラスナとの契約が成立しなければ
リンテントポーゼはどうなってしまうのか。
領主と長女はとても困りました。

当時はまだヴィエスナ・クラスナの影響力も、今ほど広くはありませんでした。
そのため度々、他の強力なエンブリオの脅威にさらされることもありました。
その度にヴィエスナ・クラスナはジヴィーテとリンテントポーゼをお守り下さっていたのです。

コシチェイ

この名を覚えておいてくださいませ。
何処からか現れた悪しき魔。
こやつはヴィエスナ・クラスナを騙り長女を唆したのです。

妹たちの命を捧げれば契約をしてやろう。

長女は悩みました。
まだ幼子もいた下の妹たちを犠牲にしてまで領主となるのか、
しかし自分が領主とならなければリンテントポーゼに未来はない。

長女は領主となることを選びました。
その瞬間、悪魔は本性を現し、妹たちを一人残らず喰らったのです。
若い娘を好んで喰らう悪魔、それがコシチェイなのです。

「それから、どうなったんだ？その長女は助かったんだろ？」
「はい、ヴィエスナ・クラスナ様がコシチェイを封印して下さったのです」
「殺さなかったのか」
「ジヴィーテの血を命を奪った後でしたから、さすがにそこまでは出来なかったと伝わっております」
「役立たずだな」
「さぁさ、デリフィーン様、爺の昔話はこのくらいにしましょう。
遅くまで起きている子の所には——」
「コシチェイがくるぞ！！」
「！！！」

「と言いたかったんだろう？良くある教訓的な話だったな」
「…デリフィーン様」
「そんな心臓が止まった様な顔をするな、言われなくとももう寝る」

「デリフィーン様、これだけは覚えておいて下さい。
コシチェイは今でもジヴィーテの若い姫の命を狙っていると言います」
「ヴィエスナ・クラスナが封じているんだろう？」
「そうですが、いつその封印が解けるとも限りません。
ですから、跡取りとなるジヴィーテの姫は男子としてお育てしているのです」
「なんだ、ヴィエスナ・クラスナの趣味じゃなかったのか。
確か男子の方が親和性が高いから精神を男に近づける、と教わったぞ？」
「それもございます。
それ以上に、コシチェイの一件の後ジヴィーテを守るためにヴィエスナ・クラスナ様がそうお決めになったのです」



まだ小さかった頃の話を思い出した。
ドロワとリーゼロッテという名前の者達との一戦においてティッキーが召喚したエンブリオ。
あれは——