「ばーちゃん、とった」

白金の髪をした６歳位の娘が、小さなかごからんしょ、んしょ、と
様々な草や種を取り出し、年季の入った木のテーブルへと並べて行く。
後ろから軽々と薪の束を担いだ銀髪の一本角を持つユニコーンの青年も顔を見せる。

「ヘムが放っておくと何でもかんでも食べようとするんだよ、草も種も。
流石に毒持ってるのとかヤバイのは食べちゃだめって言うんだけれど目が離せない」

「ご苦労だったねヘムロック。ラウルス、お前さんも。……困ったねぇ。本当野生児だ」

「人里まで行かなければ、この森はそんな害意のあるエンブリオも居ないし、
森の動物だってまあ、誰かしらが追っ払うなり話はしてくれるだろうけれど
自分から食べるんじゃあ、ね」

白髪の老婆が、少女が持ってきた薬草達を分けながら苦笑すれば、
どさりと薪を置いた一本角の青年が、その華奢な体に似合わぬ力強さでひょいと少女を抱き上げる。
抱きあげられて嬉しいのだろう。常よりにこにこと笑っている表情の笑みがもっと強くなる。

「そうさねぇ。……薬に関しての覚えは悪くないんだけれど、
余りそれ以外の頭はよくないねぇ、この子は」

「落ち着き持たせるならついでに言葉遣いも教えようよ。
言葉の数もまだ少ない。俺達はいいけれどさ、分かるから。
とりあえず形からって言うのもありじゃないかな。
言葉と所作さえあれば、頭が無いのも隠せるよ。教えるなら小さい今だよ。」

二人の会話が何のことだろう、と不思議そうに首を傾げて見せる、夕暮れの瞳。
ぱちり、ぱちりと瞬きを繰り返し、銀髪の青年と老婆を交互に見やる。

「それなら名前ももう少し変えた方がいいかね。
毒ニンジンの花の傍で拾ったとはいえ【ヘムロック（毒草）】は女の子には可愛そうかねぇ」

「多分そう言うの気にしてないけどね、ヘムは。この野生児だから」

ねぇ、と蒼い瞳の銀髪の青年が覗き込んで聞けば意味を分かってないのだろう。
こくんと頷いた。ね、という言葉にお互い苦笑しか零れない。

「女の子らしい名前……何がいいかねえ、女の子らしい……」

考えるように、視線をさまよわせる。時。
目に入る。鉤針編みのレース。

「……もしかして同じものを見たかな？」
「そのようだねぇ。……繊細な柔らかな女の子らしい娘になる様に。
悪くないと思うがね」

奇しくも銀髪の青年も、老婆も同じものを瞳にとめて。
そしてお互い顔を見合わせ、笑う。単純だが、悪くない名じゃないかと。
すとん、と少女を下ろし、おいでと老婆が手招きする。
相当に遊びまわったのだろう髪をそっと直しながら、見上げてくる少女へと笑い掛ける。

「ヘム。今日からお前は名前が二つになるよ。…正確にはこちらが名かな。
お前の名は——」

妥協は必要だ。汚いものに蓋をしているだけだとしても、と首を振った。

こんな彼女のことだから深い意味は無いと思いつつも、にこやかな笑顔に何とも言えない表情。

総合的にこれはあかん、と判断してお節介を焼き始めた。
胃が痛そうな顔をしている。

(どこから取り出したのか不明だが)キュウリを1ダースほど押し付けた。

撫でる手を無暗に刺激しないよう気遣ったのか、ぴたっと動きが止まった。
心配そうに見上げている。

それでか随分と気を遣っているように見えるけど、それはそれで疲れないかい？と聞き返した。