違うね。私は多分、彼の生まれながらの欠落に惹かれているのだろう。
自分が何であったのか、名前を得ないまま生まれた彼に。

マルムベリィへの転換は成功した。しかしながら様子は以前の彼女とは異なる。
もともとひとつだった分かれていたものを合わせたのだから無理もない。
私はそれがひどく惜しいと感じている。
彼女の奇跡のような力はすべてあの人としてのある期間を欠けさせる、
一種異様な施術があってこそのように思えてならないからだ。
かつては神を見上げ、それからは人々の癒しを見上げていた彼女は、
そこから眼を離さなかったがゆえに彼女だったのだと。

モックはその手で彼女たちを救う。
思ったよりも長くかかってしまった復帰には、いまだ慣れてはいないし、
自らをベロニカと名乗る彼女を表出することもほとんどなくなった。
彼は順調に人間として在ろうとしている。
かつてホムンクルスとして自我を失った末に彼の価値を見出していた我々は、
いつからか彼が自由にその腕と足を持って戦闘することに慣れた。
彼は私には実のところを話さない。
彼がどうしたいのかさえも。

シエミは二日酔いのような様子だった。
彼女が正気であれば出来ることの幅はずいぶん拡がるだろう。
この喧騒から抜け出すことも実際は十分可能だろう。
ではどうする。

少し目を閉じて、肩の力が抜けた風になる。