焼き払われた不死者の群れが、動かなくなった。
　それと、同時。その中の一つだけが、起き上がる。
　服の埃をぱたぱたと払いながら、『呪術師』は常と変わらぬ薄っぺらい微笑みを、顔に貼り付けた。
　何も、言わなかった。それこそ、ディアリアドが彼の隣に並んで、声を描けなければ、呪術師の姿は、動く死体と大差無かったのかも知れない。

「次は、どこに行くんだ？」

　言外に、ディアリアドは『いつも通りについてくる』と言っていた。だから、呪術師は『いつも通りの』笑顔で応えた。

「……そうだね。次は、城を進んでみようか。きっと、あそこには、いい『材料』があるから」

　常と変わらぬ、声。耳元を撫でるような、甘ったるい言葉の吐き出し方。廊下に、転がる台詞。

「城か。確かにあそこら辺は色々落ちてるけど」
「……『落ちてる』、か。そうだね、『ルド』」

　しゃなり、とした歩調。まるで何かに引き摺られるように、例えば、糸に吊るされた人形が、床を歩いている演技をすれば、彼のような歩みになるのかも知れない。
　呪術師は、山だって、川だって、平地と変わらぬ速度で越えていく。ディアリアドは、彼が息を弾ませて駆けている姿を、見た事が無い。

「確かに、あれは落ちてるようなものだ。結局、人間なんてものは、『落ちる』事の方が、遥かに楽なんだ」

　『呪術師』は先導する。
　少年はいつだって、行くべき先を知っている。
　背中。所々が三つ編みにされた、墨色の髪。背丈は、ディアリアドよりも、頭二つ分低い。

「だからね、『ルド』？」

　不意に、振り返った姿。
　常と変わらぬ笑顔。
　どう手入れをされているのか、女のような黒髪が、さらりと揺れる。


「————僕を一人にしないでおくれ？」


　『いつも通り』だ。
　その顔に、何も変化なんて無い。
　見上げるようにディアリアドの顔を覗きこんだ呪術師は、痛そうな顔なんて、していない。

————足音は、しなかった。

　『呪術師』は足音を鳴らさない。
　廊下を進むのは、布擦れの音だけ。

　一度、立ち止まった後。振り返る。
　薄っぺらい微笑みを顔に浮かべたまま、少年は再び歩き出した。

　
　廊下の先、広い空間。いくつかの気配がある場所にようやくたどり着いて、肩から棍を下ろして歩調を早めてそちらへと向かう。
　見えたのは亜麻色、固い大理石の色。その前に立つ——
　

　
　
　————眼を、瞠った。
　
　
　

　少年の顔には、常と変わらぬ笑顔があった。
　薄っぺらい、貼り付けたような、微笑み。

　言葉の、途中。
　振り返った顔は、常の微笑み。
　ゆっくりと、伏せていた瞳が、開く。

　

　　　△　　土　▲
　　（　㊤　皿　㊤）　　がしゃーん
　　（　　　　　　　　）　　　　　　
　／│　　塊　　│＼　　　　　　　　　がしゃーん
＜　　＼＿＿__／　　＞
　　　　┃　　　┃
　　　　＝　　　＝