■水辺：女神の園にて

「いやはや、何がどうっちゅーわけやないが、清々しいな」
　ひんやりとした空気の中にあって、周囲を彩る花の自然と、人の手による芸術との調和が何だとかかんだとか、難しいことはよくわからないにしても、綺麗なものは綺麗だ。
　寒さを物ともせず、鼻歌交じりに歩を進める竜の娘は真っ直ぐ進むでなし、物言わないから、控えめに物を言い返すようになった小鳥の左右を飛ぶように跳ねている。
　絵物語の中のようにと称すには、娘と小鳥の役割が逆だな、なんて思う。
「まぁ、構わんのやで。皆仲良ォやるんが一番やとも」
「…何か、含みを感じるな」
　呆れか諦めか、そんな風な低い声に振り返る。
　一応、笑顔でいるつもりだ。
　何も、この場に不快なものなどないのだから。
「構わんと言うとる。構いなや、私にかかずらっとる余裕なんぞは、他に向けりゃエエ」

　ひとの、急激な変化は恐ろしい。
　一夜にして、一時にして、一言にして、心根を塗り替えてしまう。
　それは刹那の生き物であるがゆえの特性なのかもしれないが。
　私にはあれが、小鳥の変化が、喜ばしいものなのか否か判断がつかない。
　そも、そうしたことは私の領分ではない。
　世話を見るには、飼い主の仕事で。
　なれば、真に、いかがなものかと考えているのは、これ、この男の変な柔らかさに他ならない。
　…気色が悪い、と言うてはさすがに、あれだが。

　それはそれとして。
「あぁ。そういやユーグ、今更、背は伸びんわな？」
「は？」
「太ってもおらん？」
「急に、雇い主らしく健康管理かい…？」
「スーツはサイズが命！」
　本職たる手作業は私の癒しでもある、特に衣装など見栄えの大半を占める仕事は身が入るものだ。
「愛らしいもん作っとるんも気分がエエけどもな、たまには、こう、ぱりっと、キリッと！　自分のやといまいち甲斐がのォてな！　お前さん、タッパだけは立派やからな！」
「た、っぱ…、サクロ、未だに君の言っている言葉がたまにわからない」

　誰の言葉ならわかるつもりだ？と混ぜっ返すのをやめておいた、私はそれなりに優しいと思うのだ。

[>土人形のような機械が三拍子のリズムを刻んでいる。