枯れた土地を進む事三日目、途中違う進行ルートを見つけた以外には特に大きな変化を迎える事無く、無機質な光景が続くばかりだった。

　件の人物たる男は、連日の砂地を意に介した様子も見せることなく突き進んでいる。
　その少し後ろに続くのは白狼アンジェロ…ではなく、セイレーンのラクレットであった。小川で仲間になった割りに、この厳しい地でも挫けることなく、勲の足しにと男の一挙手一投足に注視していることが多い。そんな調子で足元が覚束無いかとも思うのだけど、幸いにして背中にある翼が助けとなっているようで、いまだ危惧するようなことは起きていない。

　平時は逆にフォローして貰う事もあるのだが、事、歌の題材となると首を突っ込みたがるのは彼女の悪い癖でもあった。
　そんなラクレットから少し後方をリコとピクシーのグラナと、そしてザントマンのカンタルが続く。先のサラマンダー契約の折に、一人先行したのを危ぶんだ男がカンタルにお目付け役を任命していたのである。
　尤も、当のカンタル自身はそこまで確り見張ってるという訳でもなく、時折欠伸をするくらいに緩い感じであった。

　周囲を警戒しながら、ふと背後を首だけ回して様子を覗き見る。
そこには白い毛並みが目立つ大きな巨体の上を、炎を纏った妖精がふわりと浮いている様子が見てとれる。
　ルイと名付けたサラマンダーは、中々周囲に打ち解ける様子を見せず、どうしたものかと考えた末、一番親しみやすい白狼アンジェロに行動を共にしてもらうことにした。

　ピクシーのグラナと引き合わせてみたり、お姉さん的な感じのラクレットともコンビを組ませてみようとも考えたのだが、契約する際に注意を惹き付けられたこともあってルイが警戒を解かず、眠らされたカンタルに至っては、それは最たる様子を見せていたので、選択肢がアンジェロと自分しかなかったともいえる。

　そんな隊列で進む事暫し、砂地で三度の襲来者は虹色に輝く貝と、砂水母…とでも言うのだろうか？ 何とも砂地にはにつかわない相手だった。

　契約した4体のエンブリオの力を借りながら、鞭を振るい続ける男は優位に戦いを進めていく。
　その姿を見守っていると、契約したばかりのルイが手持ち無沙汰になったのか近くへとやってきた。
　一緒になって戦いを注視していたが、やがて、炎を纏わせた小さな体に変化が表れたように見て取れた…気がする。

　言葉に反応するかのように炎を一度滾らせると、その勢いを駆って炎が渦となって敵影へと伸びていく。思わぬ力に怯んだ敵の隙を男が見逃すわけもなく、一気呵成に鞭を打ち据えれば間もなく勝敗は決したのである。

　助力してくれた事に感謝の言葉をルイに告げていると、不意に戦いを終えた男が背中越しに片手を軽く上げてみせた。
　感謝の表れなのか、余計な事はするなという表れなのか…ただ、何となく前者だろうと銀髪の少女は中りをつければ、近くに居たルイの影響もあって心が温まった気がして。
　大丈夫？とばかりに炎の勢いを減じる様子を見せる相手に、首を一度縦に振ってみせると、意思が伝わったのかルイも一度強く炎を燃え盛らせたのだった。