ザントマンとの契約を終えて間もなく、枯れた土地を尚も進んでいく事になった一行。
少女は先日の謝罪をしようとするも、タイミングを逃してしまった感もあり躊躇っていると、その脇を大きな体躯をした白い狼が気遣うように寄り添ってくる。

　背中の辺りを一撫ですると、理解したとばかりに白狼は少女の元を離れ、先行する男の方へと駆け寄っていく。
少女も倣うように後を追っていくと、祖父は珍しく脚を止めて付近に居たのであろう何人かの者達と何やら話し込んでいる様子が目に飛び込んできた。

　一人目は灰色がかった淡い金の長髪をポニーテールにした剣士然といった井出達で、双眸の色が違うのも特徴的な青年。
　二人目は金髪蒼眼の持ち主で…服の丈が幾分か長いようにも見えるが、不思議とそれが似合っている女性。
　三人目は肩までの黒髪と同色の瞳を持った小柄な少女。外見とは対照的に、持つ武器は鎚な辺り只者ではなさそうだ。

　やがて、一同が確認が取れたとばかりに一つ頷けば、再び先を進むことになるのだが、そのゆらゆらとする景色のなかに、人影が見えた。黒ずくめの衣装がすごく目立っている。

　目を凝らしてみると、この砂漠のなかを忍び足で移動しているようだ。周囲の様子を見ながら慎重に足を進めている。

　そんな事を思案めいていると、前方を行く四人が接触したようで、件の人物もこちらに気付いたようだ。

トキサメ「ひぇああッ！？」

　悲鳴にも似た声を聞くに女性なのだろう…改めて見やれば、黒ずくめの衣装を身に纏うその人物は、青と黒の入り混じった長髪に緑色の瞳をしていた。

トキサメ「なな、なんだ貴様らッ！ このトキサメの忍び足を超える忍び足でしかも速い！何者だッ！！」

トキサメ「これは秘密の作戦・・・・見られてしまっては仕方ない・・・・・・・。・・・ここで眠っていてもらうッ！！」


　止む無く戦闘を開始することになったのだが、四人は雰囲気から察知していたようで、各々が武器を構えて対峙すると、その人数差もあって徐々に追い詰めていく。
　トキサメと呼ばれた女性も自負するだけあって、機敏な動きと毒を用いて四人を蝕んでいくが、数の不利を覆すほどのものではなく、倒すのにそれ程の時間は要さなかった。


トキサメ「・・・・・すみませんでした、ちょっと調子乗ってました・・・。これで・・・・・許してください・・・・・」

　倒された事で戦闘前の気勢は削がれたのか、震える手で彼女の財布と思しきものから、各自に30PSが渡される。

トキサメ「あ、もしかしてここに用ですか・・・？地下牢への隠し通路ですけど・・・」

　指差した先には、階段があった。

　目の端に何か見咎めたような気がして、戦いを終えた四人から離れて、地下牢の通路を覗き込んでみる。
　戦いを終えた四人は、互いに二言三言言葉を交わしていた…健闘を称えたり、今後の事を話し合ったりしているようで、リコの動きに気付いたとしても大事には至らぬとそのままにされていた。

　覗きこんで間もなく目にも鮮やかな赤色が視界に飛び込んできた。そちらを見やると、そこにはピクシーのグラナにも似た炎を纏った小さな体をした生命体が浮かんでいたのである。
　警戒するように炎の勢いを増したその生き物ではあるが、すぐにその炎の勢いが減じている事に気付く。

　グラナとラクレットに頼んで光と音とで惹き付けておいて、いざ捉えようとするに至って最近契約したザントマンたるカンタルに、その大役を任せることにした。
　彼が持つ眠りの力を使えば如何な炎を持つ生命体と言えど、一溜まりも無い…のではあったが、微睡んだ状態では契約を結ぶのもままならない事に気付いて頭を抱えていると、白狼を連れて男が戻ってきた。

　他の三人はどうやら先に出立したらしく、その姿を認める事が出来なかった。きちんとした挨拶も言えず後悔の念を抱いていると、それを先の炎の生命体の扱いに悩んでいるとでも捉えたのか、躊躇いもなく男はその生命体を捕まえれば、意識を取り戻したのだろう…再び炎の勢いが増していく。
　炎の猛りに男の顔が僅かに歪むが、紅い花の花びらを見せれば半ば強引に契約を成立させたのである。

　言葉が次げずに口をぱくぱくとさせていると、不意にまだ居残っていたトキサメと視線が合ってしまった。
　立ち上がりながら、言葉の捌け口を捜すようにトキサメの動向を尋ねると…

トキサメ「私は・・・・・あっちなので・・・。はい、それじゃ・・・・・」

　とぼとぼと去っていく間際に、トキサメから何かを預かって。
中を見やれば、そこにはおにぎりとたくあんが鎮座していた。

　そんな事を思いながら、本当に置いていかれそうになりそうだったので、男を追いかけるべく小走りに先を急ぐ少女の姿があった。

傍らの白狼を見やり、名残惜しそうにその頭をなでた。