枯れた土地とも称される砂地は、少女にとってどちらかと言えば苦手な場所だった。行けども行けども目に飛び込んでくる光景に変化がなく、気が滅入ってくるからだ。
　いつものように先を行くレーヴェの姿も心なしか朧の如く、姿が揺らめいて見える…ような気がする。レーヴェの後を白狼であるアンジェロとセイレーンのラクレットが続き、最後尾にリコとピクシーのグラナが続くといった隊列を、このエリアに入った時から採用していた。自然と隊列は縦長となる訳で、先頭と最後尾との差は結構な距離が開いていることに気づかないほど、銀髪の少女は考え事に集中していたのであった。

　何か救いはないのかと視線を右に左に走らせてみるが、飛び込んでくるのは痩せた大地に、枯れた自然の爪痕ばかり…。
　ならばと試しに水を引くのにどれ位の費用がかかるだろうと試算してみたが、すぐに頭を振れば一つ溜息をついた。

　ぼんやりとそんな事を考え込んでいると、何者かにシャツの襟を引っ張られた気がして意識が現実へと引き戻されていく。
　見るとピクシーのグラナが一生懸命にリコの脚を止めようと躍起になっていた。何だろうとようやく脚を止めれば少女を囲むように見慣れる二つの影が狭めてきていたのである。
　二つの影のうち、一つは袋を背負った青年で、もう一つの方はラクダと思しき姿形だった…なんか眠そうな眦をしているのは気のせいだろうか？？

　視線を外したら危ないと本能的に感じて、双眸は二つの影を捉えたまま後ろ向きに後退を試みる。グラナも威嚇するように強く光ったりしてみせるも、怯ませるほどの効果はあげてないようで、一向に距離を離す事が出来ないでいた。

　そんな攻防の時間がどれ位続いただろうか…？
不意に大きな体躯をした影が双方の間に割って入ってきたかと思えば、歌声とともに鞭を持った男の姿が視界に飛び込んでくる。

　疑問に答える声は返ってくることはなく、男は二つの影との戦闘が間もなく開始された。
　戦いが始まってすぐに、二つの影が繰り出す技の異質さに少女は気づく。何故ならば男が頻りに眼差しに手をやっているからで、平時であれば掛けるサングラスの位置調整に使う手も、今は眠気を耐えるように何度も拭っていた。
　生半可な意志力では耐え切れなかったであろう眠気の猛襲に苦戦しながらも、男はラクダを倒す事で解放されたようにも思えた。

　…しかし、ラクダが倒れ間際に放った技と、もう一方の眠気を齎す技の直撃を受けると、さしもの英雄と謳われた男も膝を折らざるを得ないほど耐え難いものだった。

　危機を察知して叫ぶも、中々男の耳には届かないようで相手の攻撃が何度も敢行されるたびに、男の体からは出血が飛び散っていく。
　自分に何が出来る訳でもなかったが、それでも必死になって呼びかける事幾度か…ようやく声が届けば男は再び立ち上がると、残った影に反撃とばかりに鞭を打ち据えていく。更なる眠気が飛ぶも、この戦闘で老雄は二度は膝を折ることはなかったのである。

　戦闘が終結して間もなく、自分が至らなかった事を謝罪しようと男の元へ近寄るも、男は片手を上げてそれを制した。残る一方の片手で倒れた影の一方…即ち、袋を抱えた青年に向って契約を結ぶ紅い花を使うべく所持していた。
　どうやら契約が終わるまで待てという事らしい。何度も迷惑をかけてきたのだ…それ位はお安い御用と、邪魔にならないよう後方に控えて様子を見守ることにした。。。