お決まりの台詞が響き渡り、”演奏”が始まる。
モルト・スフォルツァートの暴力を初めて目の当たりにした者は、大抵は最初いぶかしみ、
その原理を聞いて一頻り哂い、その後改めて戦慄することになるのが定番だ。

音使いモルトの”技”は、肩書き通りその音によるもの。
奏でる楽器の音色を反射・増幅・収束させ、一点に集める事で爆発や穿孔を巻き起こす。
不可視の弾丸の危険性は実際のところ弩弓と大差なく、指定した場所に音速で到達するという武器の性質からすれば、
尋常の狙撃よりも寧ろ厄介といえるかもしれない。

最大の欠点、付け入るべきポイントは、反響を集めて力と為すための「前奏」が長いこと。
鉄火場の真っ只中で優雅に楽器を弾いてるその弾き始めには、たいした力が出せないのだ。

逆に言えば、其処で処分できなかった場合は未曾有の大惨事が敵対者に襲い掛かる。
喧嘩が弱い、と語るモルトだが、前項の弱点を把握しているだけで、決して戦力が低い訳じゃない。
寧ろ自覚があるので、パーティの後方に位置取って壁を活かしつつ、仲間の身体をも反射板として
反響収束に利用してくるという厄介さだ。


彼女の棲む世界。探求に実を捧げた楽園世界アイオネラの求道者は、成人ともなればこのレベルの化物ばかり。
連中に共通する自信満々、異世界が楽しくて仕方ない、といった風の態度は、
全てがはったりのフェイクというわけではないのである。




そして今宵も、魂震わす致命の音色が響き渡る。

数多の世界にアクセスした彼女のみが奏でる事の出来る歌。そして曲。
世界律を超越したコードは、このメルンテーゼでは存在すら許されない。
故に捻じ曲げる。　法則を。　小さな歪みを起こし、その中に大きな力を取り込んで。
風船を膨らませるように、大切に大切に世界を破壊していくのだ。

発狂した空間の只中で、昂然と胸を張って宣言する。
が、それは果たして、音楽と括れるものなのか。

ひとたびきけば魂を奪われ。
ひとたびきけば肉体を壊され。
ひとたびきけばその意思すらも破却される。

奏でし者すら拝聴する事終にあたわず、　ただその忌わしき楽譜を脳裏に留めるのみ。
　　　　フラウティーノネルモンドロット　
それが発狂世界吹葬楽。
このよのおわりをつかさどるかみさまの、そのまどろみをとどめるために、うちゅうの中心で鳴り響き続けるいのちの蝋燭。

そのおぞましい旋律のその忌わしい一節は、一定の濃度を得たとき、周囲に決定的な破壊を齎す。
まるでそれを理解するのを世界が拒むように、猛り狂う大いなる何かに触れてしまったように。
空間そのものが ねじくれ、へしゃげ、逃げ惑う。
真に聞いているのは世界だ。聴衆がいくら耳を塞ごうが、その猛威から逃れる事は　　出来ない——


低筋力・低精神性にして人格においても低く、ぶっちゃけ日常はお荷物であるモルトが集団に貢献しているのは、この一発あればこそ。
木っ端レベルの雑魚では日の目を見ることもないが、全力を投入して望むべき決戦において、その存在は比類なき切り札と化すのである！！


チーム”ティーパーティ”の前に立ちはだかるは、元・王宮騎士団副長にして現・庭師、ブランチマン！！まさにその標的たるに相応しい相手だ。
仕掛けた布石は実に１５発。周到なる準備と、二人の仲間の献身の果てに培った反響の「力」は十分以上。ねじくれた世界を背に背負い、今必殺の一撃が、彼の庭師を捻り潰さんと開放される！！



が。

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が、ダメ！


3発である。　容赦なく。比類なく。これはすごい、って思わず拍手しそうな。３連カウンター。
手にした枝切りバサミを使ってすらいないあたり、貫禄すら漂っていた。

元騎士団副長、伊達ではない。然し今回の場合は、さらにモルト自身の決定的短所——技の過激さ派手さに隠れ、今の今までついに誰もが気付く事無くスルーしてきたふざけた特徴が、この結果を招いたのだ。

モルトの技から逃げられる者はいない。　が、逃げないのは自由だ。
前衛が倒れたのを幸いと最短距離を真っ直ぐに歩み寄り肉薄してしまえば、範囲に影響を与える攻撃はモルト自身を捻じ切ってしまう。
で、躊躇した所でP・P・K。


必殺技に逆転の期待をこめてパーティ・メンバーが視線を向ければ、其処にはモルトの姿なし。
かわりにパンツの白も爽やかな謎のがに股が逆さに地面に埋まっている、という衝撃の光景が展開していた。
すごい反撃と自分の技の反動をモロに食らいOKされたモルトは辛うじて生きており、天に向かって伸びた足が時折力なく稼動する、というオブジェ状態。　5PS位の価値はあるだろうか。



元騎士団副長ブランチマン。　その高い壁を前に、多くの挑戦者が撤退を余儀なくされている。

ただその中でも、此処まで株とプライドを地に落とした奴はいないんじゃないかな多分きっと。

泣く事すら思いつかず、暫くこんな顔で呆然と虚空を眺めてる自称・音階の魔女の姿は、ただ只管にイタタしく——
はたして、復権の時は来るのだろうか。
その答えは新しい進路、鬱蒼たる森の向こうのように見通せざる状態であった。














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リベンジPTからリストラされました。

だめっぽい。