＞アムネジアさん

ヰルのねちっこく触られる手の動きに、私は思考がどんどん曖昧になっていった。

私は自分でも意識せずにそうやって、ぼんやりとする頭でそう答えていた。

私はどんどん身体の疼きを止められずに、身体を震わせたのだった。

いつでもヘルプに行ける体制をとりつつ

そういって翻ると料理の準備をはじめる。ついていこうとしたフィーナをぐいっとひきたおして待っているように命じた

そういって、椅子やら机やらを準備して座り、ウィルさんのほうへも椅子を差し出す

数分後……

そういって席に着きました

ミハイユの境遇を聞いた天郎は頭を抱えた。

天郎もまた、自分の境遇を語りだす。

天郎は久藤という忍《しのび》の家系に生まれ、若き天才として世界を渡りながら活動していた。
そんなある日、姦計の練習をするよう師に命じられる。
天郎は練習台として、とある遊牧民の女にミハイユの母を襲った夜魔と同じ真似をした。

無事に生まれてくる確立が１割にも満たない血統だったので、思い残しは何一つ無かった。
……そのはずだった。

子供は産まれていた。それも、双子でだ。
それに気が付いたのはそれから何年も先の話で、二人を産んだ女は病気で死んでしまっていた。

それまでに自分は2回死んでいて、二度も煉獄を通らずに生き返った天郎は、天地の神々から目の仇にされていた。
子供達が住まう場所は神々と深く関わる場所であり、会いにいく事が出来なかった。
『お盆』と呼ばれる年に一度の三日間だけは会いに行くことを許されていたが、それでも少な過ぎた。
天郎は、旅で稼いだ財産を送る以外の事を子供達にしてやれなかった。
仕舞いには子供達を残したまま人から神になってしまい、今はそれさえもしてやれない。

自分は今『天之御中主神』 と呼ばれ、天地を無に還すものとして忌まれている。
それはひとえに自分の意思が通じないところで自分の力が働いているためであり、
今はそれをどうにかしようとしている。
たとえ、自分自身を滅ぼすことになったとしても。

女を襲ったのは練習台としてだが、それでも何も感じなかったわけではない。
"耐性"のなかったあの頃は、気が狂いそうになるほどの衝動に苛まれたものだ。

人は一人でヒトになれない。
天郎が人間を自称し続けているのも、それをよく知っているからこそなのだ。

天郎はミハイユに向けて、虹色の表紙をした手帳を差し出してくる。
これは、別の世界にて【アルター】と呼ばれる道具である。
本来ならば特定の範囲内でしか機能しないものを、改造してその制限を取り払っている。
アルターには記憶した場所へと移動できる機能が備わっており、既に、天郎のいる場所をはじめとしたいくつかの場所が記憶されている。
ミハイユの帰る場所を記憶することも出来ることだろう。

そういって手を振った後、転移の呪文で離れていく。