その日、私達はいつにも増して多忙を極めていた。
くたびれた装備をなんとか新調するために、
情報を精査した結果、森林へ行く道を私は強く推したわけだが、
予想以上に高級素材を採取したのだ。

素材のひとつに、攻撃力を大幅に増幅する『樅』の木があるのだが
あれをアムルィが敵の中から引き抜いて来るわ、
もう一ついつの間にか手にしているわ。まぁ私のものはついでだが。
ともかく、天は私を見はなさなかったと考えていい具合の収穫だった。

世間としては非常に希少価値の高いもので、
ともかく市場に出ない。買い取りの呼び込みまで出る始末だ。
それがうちには余るくらい手に入った。

獲得した次の日に
大本営で手紙箱を確認したら
いつもお世話になっている令嬢様から楚々とした手紙が来ていた。

祝辞かと思ったら、直球で取引交渉の案内だった。

この時私が抱いた言葉にできない感情は、この先忘れないと思う。
宝くじがあたった人は、大体こんな経験をしているのだろう。

ともかくも、その素材を取引するために
こちらはバケさんとスカーレットに森へ行ってもらう事になった。
森林の敵は攻撃力が強いので、防御に秀でるメンバーの方がいい。

遠出の準備をしつつ、情報処理をする。
MRAを立て直すのに必死で、だいぶ私個人の仕事が遅くなっていた。

攻城戦に関する資料を多少乱雑にしながら、私は報告書を書き記す。
テントから差し込む日光は穏やかで、
ラケルトやラズロの手配書の上でバケさんが昼寝をしているのが見えた。

彼らはまぁ大丈夫として、問題はこちらだ。
わりと撃たれ弱い2人がこの先どう動くべきか。
人員の手配もしなければいけないか、
と思案している視線の先にアムルィが映った。

「アムルィ、今回の侵攻先なんだが。」

私に呼ばれて彼女は立ち止まる。瑠璃の瞳がこちらを向いた。

「貴女の希望を聞いておきたい。どこがいい？」

彼女の言葉はぽつりぽつりとしか出ない。
明確な何かを示す事はないだろうと、その時は考えていた。

アムルィは無言のままテーブルに寄って行くと、
アリクイさんのお手てを上に置いてあったケチャップ瓶に突っ込んだ。
そして、拭うこともなくこちらの机まで移動してきて
机の上にあった帝王イカの手配書に、その紅く染まった手を押し付ける。
何度も何度も。ただ黙々と。

「……アムルィ、貴女は敢えてそれを選択するのか……？」

思わずそう呟いていた。
ともかくもこれは彼女の確固たる意志だ、無駄にはできない。
私は1度しか行った事の無かった水辺への案内人を探すことにした。


◇◇◇


とは言っても、自慢ではないが私は交友関係が狭い。
忙しくなってから娯楽施設には遊びに行っていないし。
大本営に依頼するという手もなくはないが、
安全保障上あまり選択したくなかった。

頼れるツテは個人的な交友関係ばかりだが、
いろいろ縁遠い上に、立場上難しい人だっている。
当たり前だが一揆で出会った人なので、さして親しいわけでもない。

人数の関係上、出来得るならソロがいい。
他のパーティメンバーの都合に合わせる必要がないからだ。
向こうとこちらの意向が合うのが一番望ましい。

大丈夫そうなソロの知り合い……あっ。

頭の中に、ふわふわもこもこした残像が浮かぶ。
そういえばあそこは只今、一人旅のはず。

私はとりあえず、確認だけでもと彼らのキャンプへ向かった。

◇◇

「ふわもこーずの皆さん、いらっしゃるかね？」

木漏れ日が降り注ぐ木陰の中、
キャンプを覗いてみると、ふわふわとした水色の塊が一つ。

「あらあらコトブキさん、今日はどうしたんですか〜？」

おっとりとした声が聞こえる。
闘技でご一緒させてもらっている、ふわもこーずのお姉さんだ。
レス君という男の子と一緒に旅をしていたのだが、
只今レス君はお医者様のもとで治療を受けているはずだ。

「えーとシフォンさん……だったか。レス君のお加減は良くなったのか？」
「ええ、もうすっかり良くなって〜。本当に良かったわ〜。」

シフォンさんは本当にうれしそうだ。
最初、闘技大会で出会った時はエンブリオしか居ないと聞いて焦ったが。

「復帰おめでとうございます。して、そのレス君は？」
「今ね、お買いものに行ってるんですよ。私だけお留守番なんです〜。」
「そうですか……話を切りだしていいものか迷うな。」

私は口元に拳を当てて考える。
次の行先の話なので、レス君がいないとどうしようもないだろうし。

「もし良かったら、私がお話しだけでも聞きますよ〜？」

のんびりとした口調でシフォンさんが言う。
彼女はほかのふわもこさんより大き目で、お姉さん格である。

「分かりました、ではまずシフォンさんにお話ししておきますよ。」

私は水辺への近道の案内を申し出てみた。
今までこちらが水辺に不慣れな為、案内役が欲しいこと。
もし行く方向が同じなら、私とアムルィを連れて行って欲しいことなどだ。

シフォンさんは微笑んで聞いていたが、
『ときどきどこかが動くアリクイ人形』のくだりで俄然興味を示したらしく、
話は前向きな話で進んでいた。

「さて、レス君に了承が取れるようならお礼はどうしようか、
　こちらはお金だけじゃなく装備を作る手伝いも可能だが、
　いかんぜん懐が厳しくてな……。」

そう言いつつ、案内人の代金を試算する。
確かたんぽぽ荘の宿主が、同じ水辺で10PSあたりで募集していたか。

「あら〜、お礼なんて気を遣わなくていいですよ〜。」

ふわん、と少し体が踊る。元々居た世界ではなかなか見ない光景だ。

「ロハで作って頂くだなんて、本当に申し訳ないわ〜。」
「まだ何も言ってないのだが。」

ちなみに、私の腕は当時で武器一つにつき30PSは稼げる見込があった。
一人旅はいかんぜん装備を作るのに金がかかるので、
そちらがよりよい選択肢だとは考えていたが、
面と向かってロハだと言われると速攻で突っ込むしかない。

なんとも言えない空気だった時、私の後ろで音がする。
どうやらレス君とふわもこーずの皆さんが、市場から帰ってきたようだ。

「お帰りなさいレス君〜。キーホルダー作ってもらう事になりましたよ。
　一緒にお礼を言いましょうね〜。」
「えっ？そうなの？ありがとうございます。」

レス君がぺこりと頭を下げる。どうやら外堀は完全に埋められたようだ。

「ええ、ああ、うん……。
　それがお互いベターな選択肢だと考えてはいたから、うん。」

謙虚なようで図々しいな、このふわもこ。
別にこちらから提案しようとしていた事案ではあったが、
シフォンさんに半分押し切られる形で、今度の行先が決まることとなった。


◇◇◇


清流が流れる小川のとほり、まだ入り口あたりで私達は待ち合わせた。
このあたりはわりと人狩りも多く、気を付けなければならない。

すでにレス君達は到着していたので申し訳ないと思いつつ、
手持ちの資料の確認をする。
進む予定ポイントには現在、フラウが出現するかもしれない。
こちらはすでに契約しているが、
レス君がもし持っていないようならば、きっと役に立つはずだ。

「そういえばレス君、もしフラウに遭遇したらどうする？
　えーと、そちらでは『ゆきもこ』みたいになるのかな？」
「……？」

レス君は何のことだか分からない様子で、眉を寄せていた。

「そういえばあの子達のおうちも近くにあったかしら〜、
　ちょっとそちらにも寄ってみましょうか〜。」

シフォンさんが何か思いついた様子で、
先に先にと移動しはじめた。思ったより早い。
最初は止めようとしたが、
目的の方向と同じようだったのでそのままついて行くことにした。

「我が君、ここでいいんですよね？いやに静かなんですけど。」

書類で到着ポイントを確認しつつ小僧が問う。
シフォンさんはある程度移動して満足そうだ。

「そのはずなんだがな……ちょっと辺りを調べてみよう。」

小僧を連れて、近くの岩陰の向こうを覗きに行く。
フラウが居るなら気温がもっと低くてもよさそうだが、そんな事もないし。
物音を立てないようにして、そっと岩陰から頭を出した。

目の前でマーマン5体が白米を食べていた。

どうしてマーマンが5体も居るのか。何故マーマンが白米を食べていたのか。
頭の中ではいろんな考えが巡るが、分かっている事は１つ。
私達は方向を間違えて、マーマンの巣へ突っ込んだ。

「……方向を間違えたんですか？」
「そうとも言う。」
「どうするんですか！？フラウ出ない上にマーマン結構うざいですよ！？
　主に労力のわりに収入が見合わないので！！」
「知っとるわそんな事！！」

私達の罵声を聞いて、マーマン達がこちらを向く。
気づいた時にはもう遅い。

「……小僧、早めにレス君を呼ぶように。私も距離を取りつつ、応戦する！」

小僧がすぐにレス君の所に駆けてゆく。
私は地面を蹴りながら、銃のホルダーに手をかけた。

◇◇

目の前には、冷凍されたマーマンやこんがり焼かれたマーマンが転がっていた。
多少の恐怖があったとはいえ、ちょっとやり過ぎた感はある。

「ふう……お疲れ様でした。」

レス君は汗をぬぐう。彼の動きは早いので、それだけ運動量が多いのだろう。
今日はもう疲れただろうから、
作ったキーホルダーを渡して早めに解散したい所だ。

「そういやフラウ出てないんですけど、我が君どうするんです？」
「うーん、今回はもうどうしようもないなぁ。」

私がマーマンの巣に突っ込まなければ良かったのだが……。
後悔を息として吐き出すと、その様子を見ていたらしいレス君が口を開いた。

「まぁそんな事もありますよ、頑張ってくださいね。」

私はすでにフラウと契約しているのだが。
あまりのドライさに眩暈がしつつ、レス君にキーホルダーを手渡した。

別動隊は元気でやっているだろうか、まぁあのメンツなら問題なかろうが。
いろいろ次の予定の算段をしつつ、
この場所を地図に印をつけて一旦自分のキャンプへ戻ることにした。


To Be Continued......


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※今回、PMとレス君達（958）をお借りしました。ありがとうございます！

久しぶりに見た顔に少女は少し驚いた様子をみせたが

と、つぶやきコトブキの提案を受け入れた

シエラはコトブキに続き歩き出す
何かを考えているような表情を浮かべているが何かはわからない