「一度死んだ人間を甦らせる術を私は持っていない。それは承知のはずだ。」

　煌々と燃える焚火を挟み対面に座るグレイナードに私は淡々とした口調で告げた。
新王パラダイスを倒したにも関らず、浮かない顔をした彼が私に告げた言葉は、事前に予測出来た言葉だった。

　無言。
私の言葉を聴いた彼はただ沈黙を返した。
彼には既に幾度も話しているが私の持つネクロマンシーの技術とは、あくまで「仮初の命」を与える技術に過ぎない。
そして完全なる生命の再生を目指した事もあったが、それは不可能だと悟った事も伝えている。
それを知りながらも、敢えて私に尋ねた彼の心境は分からなくもない。

「…それにしてもアンタらしくないな。まるでアテがないのを知りながら、何故ああ言ったんだい？」

　菅原と言う少女に対し「助ける努力をする」と言った彼の言葉。
私の知る限りグレイナードという男は実際主義の人間だ。
言葉尻に「努力をする」とわざわざ付ける辺りがその性格を表していると言えるが、以前の彼ならばそもそも「助ける」などという類の言葉は言わなかっただろう。
安易な言葉を用いて人に期待を抱かせる。
それ自体は容易いがその期待を裏切らない事は難しい。

「…アンジニティでオレは似たような言葉をアイツに言った事が有る。
　助かる気があるならその手法を捜す手伝いくらいはしてやる…と言った感じの言葉だったか。」

「素晴らしくアンタらしい言葉だ。それで彼女はどう答えた？」

「菅原には軽く断られたよ。そしてオレは他人が望まない事を無理に進めるのを好まない。」

　だからか。また同じ言葉を返されない為に、ああまで強い言葉を使った。
彼女の返答を聴いた彼の顔が妙に安堵していたのはその為か。

「だが…難しいな。」

　闇の中、彼は溜息を吐いた。
それを弱音とは言うまい。

「…ああ、そうだな。難しい。
　しかしだな、一つだけ伝えるべきことがある。」

　訝しげな表情で彼が私を見た。

「死んだ人間の命を取り戻す事は不可能だと私は言った。」

「……。」

「それは私の知る限りの知識・技術を総動員して出した結論だ。
　だけどな、私は全知全能の神でもない唯の一介の学者に過ぎん。
　数多の分割世界には、そんなちっぽけな知識では分からぬ事象は多い。
　それこそ、死者が完全に甦った話もごまんとある。
　神の奇跡、エターナルデザイア、マナの秘術…。」

「……それは励ましてる心算か？」

　グレイナードは呆れたように笑った。

　
　　　　　 手をひらひらと振りつつ、身も蓋もない台詞とともに現れた。　

　
　　　　　 ふむ、と腕を組みつつどこか虚空を見やる。　

　
　　　　　 くすりと笑うと、自然体で力を抜いた。