マール「……ふう」
一仕事終えた、といった風に一息ついたマールの眼前には、彼女が普段手にしている槌より一回り大きい、赤黒い槌が佇んでいた。
　マール「術式【ブラッド】…成功、なのかな」
ローゼンクロイツ家に伝わる術式により造られる武具は、使用者自身が「こういうものを造りたい」思ったそのとおりの形そのままに発生する。
マールが彼女なりに「人を殺すためだけに存在する武器とは、どのようなものか」と考えた結果が、下手に触れるとそれだけで怪我をしそうな形状の、鈍く光るそれであった。
　マール「さて、成功してるかどうか、使って確かめないといけないね」
淡々とそう言うマールにもはや迷いの表情は無かった。
理由は3つある。
1つ目は、家紋を使い、秘伝の術式を使う以上、ローゼンクロイツの名を背負う必要があること。
2つ目は、自身の合成術が失敗するわけがない、という、日々の鍛錬を根拠とする自信。
そして。

　マール「ぷいぷいちゃんと、なるべく早く合流しないと」

3つ目は、何者かの干渉により、仲間が引き離されたことである。
油断があったわけではない。 また、よしんば油断していたとしても、使用人たちのサポートがある以上、そうそう奇襲などは起こりえない。
そうマールが思っていた矢先に、奇襲どころか、パーティを分断されてしまうという異常事態。

　マール「だから、そこを通してもらうよ」

本人の自覚は薄いが、普段の戯言が全く鳴りを潜めるほどに、マールは怒っていた。
目の前の猿的な何かが道を塞いでいることに。
儀式に集中していたとはいえ、たやすく仲間を危険に晒してしまったことに。

そして、こんなことを平然と行ってくる、まだ全貌すら明らかになっていない「敵」に対して。