○先日の戦闘後のお話


「おや珍しい。」

川付近での戦闘終了後、相手方の河童のうち１匹がひょこりとクロの前に現れた。
全力で止めを刺したはずだが…さして効いていなかったのだろうか。

他の河童とは少々違う雰囲気を纏っていたそれは、クロ以外が聞いたら目を剥くようなことを言ってのける。

「アンタもこっちにきてたのかい、クロ。
　久方ぶりじゃないか。」
「…相も変わらず図太いのォ。」

カラカラと笑う河童に、クロは苦笑を返す。
そのやり取りは旧友とのそれそのものである。

「おや、瀬戸の。
　アンタなんでそんなにちっさくなってるんだい。
　…ぶっ、よ、よもやストラップなんぞに堕ちるとはまた…ぶふっ」
「喧しいわ？！
　貴様こそ九州に里帰りしとるんじゃなかったのか、河童め！」
「やめい、こんなところで言い争っても仕方ないじゃろう。
　ところで、何故この世界に？」

ストラップにぶら下がっている瀬戸大将(小)を見た河童が盛大に爆笑し、つるされながら瀬戸大将(小)が牙を剥く。
やれやれと肩をすくめたクロは、ひとまず仲裁に入った。
河童はうーん、と唸りながら空を見上げ…

「途中四国に立ち寄って四万十川を全力でさかのぼってたら…地震で転がってきた岩に皿ぶつけちゃってね。いやー、

あの時はさすがに死んだかと思ったよ。で、気づいたらこっちの世界にいたのさ。ついでだから、この世界の河童に紛

れて遊んでたんだがねえ…　まさかアンタらがくるなんて思っても居なかったよ。」

事も無げに言ってのけるが、本来なら大事になっていてもおかしくも無い。
河童とは水神ともされるモノ。
この河童はそれなりに長い年月を生きており、水を操る術以外にもさまざまな知恵を持っているモノだ。
水神と言われてもおかしくない力を持っているがゆえに危険視する声も少なくない。
これらのことから、監視対象となっていたはずなのだが。

「お前のことじゃ、消息不明になろうとも易々と死ぬることはないと思うておったが…まさか異世界へ飛ばされていた

とはな。巫女が知ったらさぞ泣き喚くじゃろうに。」
「やめとくれ…あの子は苦手なのよ。
　アタシゃ、自由気ままに暮らしたいってェのに。」

クロの口から発せられた『巫女』の単語を聞いて河童が額にしわを寄せた。
話し振りから近しい者というのは分かるが、少々苦手の様子。

「ケッ、貴様如きには過ぎた女子よ。
　未だにあの女子が貴様に懐いている理由が分からんわ。」
「煩い黙れ産業廃棄物。
　アンタこそ未だに生きてる理由が分からないよ。」

捨て台詞ストラップに、凄まじい切り返しで言い返す河童。
途端に二妖はヒートアップする。

「何だと？！」
「やるってのかい！」

河童とストラップが言い合いしているシーンは非常に奇妙な光景だが、クロからすれば話は別。
それもそのはず…外見は違えど、その言い合いを良く見ていたのだから。

「いい加減にせい、貴様ら。
　理由はどうあれ歩を進ませるのが先じゃろう。
　瀬戸の、これから一緒に行動するんじゃ。喧嘩など以ての外じゃぞ。
　河童よ、この世界にも飽いたじゃろう。力を貸せ、この一揆を成し遂げて帰るぞ。」
「こいつが一緒か…」
「それはアタシの台詞だよ…」

クロが仲裁に入り、とりあえずは圧し留める。
しかし納得はしていないようで、口々に不満を漏らすが…

「そうか、瀬戸の。
　貴様は本体の椀が粉砕されてもええんじゃな？
　ついでに屈辱的な文字を彫り込んでやろうか。」
「クロよ、貴様嫌がらせにも程があろう？！」
「ぷっ、ガラクタ風情にはお似合いじゃないか。」
「河童もじゃ。
　その皿と甲羅に『瀬戸大好き(はぁと)』と彫り込むぞ。」
「「それはもっと嫌ああああああああ！！！！！！」」

クロの脅しによって潰される。
後半は血の涙を浮かべて嫌がっていたが、これ以上やりあわれても困るために口だけは容赦しない。

「ならば大人しくすることじゃ。
　河童も名前で呼ばれたくば少しは妥協せいよ。」
「…分かったよ、この一揆に付き合えばいいんだろう？
　けれど頼む。あの子にはあんまり派手に言わずにしといておくれ。
　余計な心配かけたくないし泣かれても困るからね。」
「うむ、承知した。
　では改めてよろしく頼む、ミツキ。」
「ええ、宜しく頼むわ。」

かくして、一匹の河童が同行者となる。
河童・ミツキが人の姿に変化することによる騒動が起こるのはまた別のお話。