古に封じられた狼の魔物が復活した。
集められた羊族の戦士たちが囮となってそれを引き付け、
その他の者によって倒された。
多くの犠牲が払われ、囮は全員食い殺された。
ただ一人を除いては。
囮の作戦に反対した羊の戦士エリックはその身体に狼の咬み傷を残しながら、
森の中を彷徨っていた。
様々な狼をなぎ払い続け、エリックが森の中で見たのは大きな黒い影の狼だった。
黒い狼は、彼に語りかけた。
かつてアルビオン島に、北の寒い海から流れて来た狼族がいた。
彼らは王のもと、先住の様々な種族の国を征服し、強大な力を持つこととなった。
そしてここ、ノーフォークには角のある小さな羊族の村があった。
そこには王が居なく、全ての者が等しい暮らしをしていた。
ある日、狼族に支配された山羊族の王子がノーフォークに落ち逃げ、
村をまとめて国とした。ノーフォーク王国は周りの種族を味方につけ、
遂に狼の国を打ち破った。以来、ノーフォークの羊族たちは国を治めるために、
王を選ぶこととなった。初代国王、山羊の王子がたいへん大きな角を持つことにちなみ、
国王は皆大きな角を持つ者から選ばれた。
そして狼の王たちは多くの恨みと共に森で処刑された。
戦いに利用された羊族のみがそれに同情して森に塚を建てていたが、
時代が変わってノーフォークの国も滅ぼされ、羊族は元の村暮らしに戻り、
戦いの伝承も塚の存在も忘れ去られた。
しかし、ある時に塚は壊された。
かつての戦いを思い起こさせるようなことが起こっている。
狼たちの恨みはよみがえり、羊族やその他の種族を滅ぼすつもりで動き出した。
だが、この通り力では勝てなかった。

黒い狼には自分と同じように傷がある。エリックにはそう見えた。
狼は続けた。
ならばせめて、狼の教えを知る者を増やしたい。
このままお前を仲間と同じように食っても良いし、一人傷を癒して帰しても良い。
だが、それではつまらぬ。
お前を狼のしもべにしてやろう。
新たな主を得たお前の仕事はただひとつ、狼の教えを広め、狼の数を増やすことだ。

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