「自惚れるな、何様のつもりだ—…」





もう何時間たったのだろう。
地面は冷たく冷え、辺りは薄暗い。
このまま眠り続けられれば、「悩む」「考える」「戸惑う」—…そんな感情から
抜け出せただろうに…。



もう一度目を閉じる。
その時だった。



「おい」



「いつまで寝てるつもりだ、起きろ、ギル」



聞き慣れたあの声のする方へ、ゆっくりと顔を上げる—…



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「マ、ハ…さん—…」

一緒に旅する灰色狼の娘。
なぜ、此処に居るのが、彼女なのだろうか。
思考がついて行かず、その後の言葉が続かない…。

「…なぜこんな所で寝ている。」
「…その前に、なぜ此処が…」
「お前の猟犬の女がマハにこの場所を教えてきた。
ここへ行ってくれと—…あまりにもしつこいので、
来てみたら—…お前が寝ていた。」

淡々と言葉を紡ぐ彼女の冷静さに
ようやく事が理解できてきたのか…、
重い身体を起こして、彼女と向き合う。


「それにしても—…此処は寂しい場所だな…。」
「これは—…キンセンカか？」

長い黒髪をふわっとなびかせながら彼女はしゃがみ込む。
細く白い手でキンセンカに触れると、金の瞳はボクを捉えた。


「…此処は、…墓地なんです。」
「…墓地？」
「—…僕が今まで撃ってきた、いえ、殺してきた動物たちを弔う場所。
そのたびにキンセンカを植えてきた。花言葉は「別れの悲しみ」…」



ぶわっと生ぬるい風がふく。
彼女と僕のまわりに咲くキンセンカの花弁がその風に乗って
2人の視線がぶつかるのを邪魔するかのように舞い散る。


「…それで？ギルは此処でどうして死んだような顔をして眠っているんだ。」
「もしかして、殺す意味を見失ったとか、後悔の念に駆られているとか、」
「ふざけたことをぬかすんではないだろうな？」







彼女の声色が変わった瞬間だった—…
鋭利な爪が僕の首寸前に繰り出される
あまりに早すぎて避けきれなかった


もう数ミリ動けば
確実に僕の喉をかき切っていたであろう。



「自惚れるな、何様のつもりだ—…おまえ」
「・・・っ」
「・・・マハは人間が嫌いだし、狩りをする輩も嫌いだ—・・・」




「だけど、」




「自分のエゴに捕らわれてここにいた者たちを無駄死にさせるようにギルは、もっと嫌いだ。」




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お前は悔いているのか—・・・
そしていつか、マハやうさぎを撃ってしまうのではと
恐れているのか？


自惚れるな。


ギルが撃つならマハは切る。
お前が真剣なら—マハも真剣に応える


それだけのことなのだ—。