狐は珍しく呆然に近い表情で、深緑色の柄を持つ十字槍を見つめた。
　相当に難解な鉱物であったはずだ。何しろ狐が化けた神石であって、本当の意味の鉱物ではない。

　飾り気は無い。されど硬度は申し分なく、速度に犠牲となった様子は見られなかった。
　穂先は鋭く、触れただけで切れそうだ。研磨されてみれば、近寄りがたい静かな威圧を感じる。

　頭を掻き、参ったと口にして。

　心を落ち着かせるべく深呼吸して、気を紛らわすために雑談に戻る。

　呆れたように肩をすくめ、されど口角はにやりと釣り上げて喜びの意を示し。

　言うが早いか、手を伸ばす。
　反応が遅れたならば、首ごと引き寄せられて胸元へ抱かれるだろう。
　和装では目立たないが、ふくよかな豊満さを鼓動と共に感じられるはずだ。
　そして続けるだろう。「男を見せた褒美じゃ」と。

　続いて、塞ぐように濡れた唇を押し付けるだろう。逃げるならば、額へ。
　溢れる想いと加護を贈る。これは、ツヅミという狐にとっては最大限の謝意といっても良かった。

　緋金色の狐は呵々と笑い、乗り越えてみたいなら試してみても構わぬが、と戯け。
　やがて、柔らかな瞳で目前の青年を眺めた。

　狐は呱々と鳴く。もう一度だけ、強く抱きしめて。

　やがて煙のように、風に攫われて消え失せたのだった。



※送信回ラストにつき。最後まで交流戴きまして、ありがとうございました！



　いつか、ある日。身の丈が腰ほどもない"銀色"の仔狐が、憎たらしい顔で彼の前に現れる。

　そんな未来が訪れるかも知れない。