変哲のないただの鍛冶屋が、それほど数奇な運命を辿るものかや？
ま、そなたがいくらそう思うておろうとも、狐に絡まれたところでもう普通でもない。
本当に何の特徴もなく面白みのない鍛冶屋を相手にするほど、儂も暇ではないさ。

ん、儂の、儂自身への自信がどこから来るか、とな？
有り体に言えば経験、じゃろ。これでも多くの恋愛を経験してきたつもりじゃからの。
あとはそうじゃな、虚勢と意地、といったところか。
ここだけの話じゃが、女は誰しもが、自分こそがこの世で最も醜い花であることを自覚しておる。
それでも、そうではないと虚勢を張ることで、女の意地を通しておるのよ。

そう、理想の女性。
どうやらそなたは、儂のように強く押し付けがましい女は好みではないようじゃ。
ならば、清楚可憐に咲く花の方が好みなのかと予想してみたのじゃが。

12//齢が下に見える相手……。……ま、百歩譲って、純粋に子供に好かれやすい質としておくか。
しかし記憶喪失で最初に困るのは、人との距離のとり方ではないかの。
親しい相手の顔も名前も思い出せぬのじゃからな、世界すべてに怯えて当然のことと儂は思う。
であるのに、年下へ優しくすることを普通に出来ることには違和感は感じなんだかや。
メルンの子供はほとんど、単騎で化け物を滅ぼせるエンブリオ使いじゃぞ。よく怖がらずに優しく出来る、な？

儂は、そなたの身体には、そなたが失う前の記憶が染みていると思うておるのじゃよ。
鍛冶にしてもそうじゃ。異世界であっても鍛冶仕事に不便を感じぬのは、そのレベルの技術を持っているからじゃ。
記憶を失っても困らぬだけの経験がある。それが、己に自信を与えておるのではないかの。

ああ、良い良い。誘いの話は忘れてくりゃれ。

難しいことを口にしておるように見えて、実際はそれほど難しい話はしておらんのさ。
自分に足りぬものを、フランメのように出来る奴に任せるのを悪いこととではあるまい。
されど全てを任せてしまっては、フランメが嘘をついた瞬間に取り返しのつかない結果に繋がる。
故に、自分自身の目と心を鍛えることを忘れぬでいてくれよ、ということさ。

それは本当に、充足感だけなのかや？
いや。……フランメ自身も、心から充足しておるのかのう。

さあ、始めましょうか

さて……やるしかないですね。

……人斬り鬼桜、いきます

恨みっこなしですよ、自然の摂理です。

立ち止まってる訳にはいかないわ
先に進みましょう

それでは、行きましょうか。