——　ローバルに囚われたウンディーネを救い出した帰り道。

ヴァルトは一つの違和感を覚えていた。


「……フランメ。」


背中に負ぶった、疲れて眠ってしまっているウンディーネを起こさないようにヴァルトはフランメに声をかける。


「あン？……何だよ、大将。」

「さっきの変身……ちょっと違和感がありまして。傍から見てて何か変なところとかありませんでした？」

「違和感？……さアな、俺にはなンにも……待てよ。」


欠伸混じりに応えたフランメは、ふと先刻戦っていたヴァルトの姿を思い出す。

ウンディーネの魔力を使った“水”の形態。その姿をもう一度頭に浮かべる。

流れる水を模した、涼やかな青色の流線型。　　その中に走る、黒い線。


「なあ、大将……水の形態は黒い線が入るのか？」

「黒……いえ、イメージでは青地に白の線だと思うのですが………！」


言葉の途中で突然ヴァルトが膝から崩れた。額には汗が浮かび、速く浅い呼吸を繰り返している。

その姿から尋常ではないことを察したフランメは慌ててヴァルトの肩から飛び降りた。


「オイ！？　大将どうした、酷ェ汗じゃねエか！……それに、」


　　ぞわ、とフランメは全身が総毛立つほどの悪寒を感じた。

目の前に居るヴァルトの中に、“何か居る”。　それは、ヴァルトに憑依するという能力を持つフランメだからこそ感じ取れた悪寒。


「オイ、大将！俺と“代われ”！！……何か、ヤベェのが入ってる！」

「入っ……てる……ああ、違和感の原因はそれでしたか……。」



絞り出すような声でフランメに応えたヴァルトは、直後激しく咳き込み始めた。

最初は違和感だった“それ”が自覚した途端に意志を持ったかのように体の内側で暴れ始める。



「ぐっ……た、多分……先刻のローバル……その、魔力……でしょうね。」

「あア！？……ウンディーネの魔力と一緒に混ざってたって事かア！？」



恐らくは、と頷くヴァルトに、信じられない、とフランメは吐き捨てる。しかし、ヴァルトの状態はそれを裏付けていた。

再び激しく咳き込んだヴァルトの口から、黒い影が零れ落ちる。その数はヴァルトが息を吐く度に増え、


「ぉ……ぅぇ……がっ……っ！」


ついには、ヴァルトは幼体のローバルを“吐き出した”。

吐き出されたローバルは、影のように揺らめいた後、フランメが威嚇で放った火の粉から逃げるように近くの茂みへと消えていく。



「大将！オイ、大将無事か！？」

「ハァ……ハァ……、今のは……」

「ローバル、だったな……だけどよ、どうやって大将ン中に……」



フランメの疑問を遮るように、ヴァルトは立ち上がった。



「……いくつか、大妖精様に訊かなきゃならない、ですね。」

「大妖精ってエと、あの……」


フランメの言葉は、行きますよ、と歩き出したヴァルトにまたしても遮られる。

先程よりも重くなった足を動かしつつ、ヴァルトは先の事を考え始めていた———



……
…


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