——ヴァルトが【マスカレイドライダー：シュミット】に初めて変身してから数日。


「この姿での戦闘にもだいぶ慣れてきましたね」

平原に発生したローバルを倒し、魔力を吸収して満足そうなフランメを肩に乗せヴァルトは帰路に着いていた。

「ですが……何と言うか、少し決定力に欠いていますね……。
フランメ、何か良い案は無いでしょうか？……キック以外の、決め技というか。」

「あァ？……ンなモン、武器か何か持てばイイじゃねエか。
大将、アンタ鍛冶屋なンだぜ？それこそ、普段使ってる槍とか……」

「壊れたらどうするんです。」

「……。」

「……。」

至極大真面目に答えるヴァルトに、フランメは呆れたと言わんばかりに肩から飛び降りた。
気がつけば水の流れる、せせらぎが聞こえてきている。川が近いのだろう。

「この辺りは……星屑の小川、でしたっけ。」

地名に自信はないが、確かそんな感じでしたとヴァルトが言うので、フランメは曖昧に同意する。
炎の力を司るエンブリオ【サラマンダー】の能力も備えた【アニマ】のフランメは、実のところ水が大の苦手だ。正直、一揆での進攻以外であまり水辺には近寄りたくはない程である。
しかしそんな事を察した様子もなく、ヴァルトは水音に引き寄せられるように歩いていく。

「お、オイ？大将どうし———」

その行動に違和感を覚えたフランメが訪ねようとした刹那、突然大きな魔力が発生した。
例えるなら、善と悪の二つの力が混じり合い膨張し、一つの悪意となるような。ここ数日で何度か感じた魔力の働き。
それは、ローバルが出現した時の、ヒトガタから成体へと成った時の魔力の流れだった

「まさか、この辺りにもローバルが……！」

ヴァルトが走り出す瞬間肩に乗ったフランメが、火焔にも似た熱を帯びた魔力を展開する。
それを肌で感じつつ、変身するための改造ネクタードライバー【シュミットドライバー】を具現化させた。フランメの展開した魔力はドライバー中央部に構えられた熔練炉に集結し、金床へと流れ込み真紅の輝きを放ち始める。


『-Driver On!-』


聴き慣れた機械音声が響くが早いか、ヴァルトは金槌を模したデバイスを強く握り、魔力塊を叩いた。

『-Schmieden!-』


デバイスによって刺激を加えられた魔力は大きく変質し装甲へと変換され始める。
炎を纏う獣を模した姿の強化外骨格を身にまとったヴァルト——シュミットはローバルの魔力の出処へと向けて強く地を蹴った。





「あれは……エビ。」

「この辺のエビと言やア、ブラックタイガーじゃねエのか。」


小川の中に佇む甲殻類に擬した成体ローバルを見つけ、シュミットは足を止めた。
幸いにも、ローバルはシュミットの接近には気づいていないらしい。一旦木陰に身を潜め、敵の様子を伺う。

「ブラックタイガーローバル、といったところでしょうか。あれもいい思い出が無いですね……」

「むしろマキガイやセイウチじゃなくて良かったと思えよ大将。ほら、さっさと焼いちまおうぜ！」



フランメに促されるままブラックタイガーローバルへと接近を試みたシュミットは、
直後、超圧縮された水流弾によって大きく弾き飛ばされていた。


「———っ！？」

盛大に水しぶきを上げ川の中に叩き落とされたシュミットは、突然の事で状況判断が遅れた。
その迷いが、ローバルに攻撃をするだけの十分な時間を与えてしまう。

続けざまに水流弾が、一発、二発。そして三発。
その全てがシュミットの体を捕らえ、強化外骨格からは白煙の様な水蒸気が立ち登っていた。しかし、幸いにもダメージらしいダメージには至っていない。あくまで敵は牽制のつもりで攻撃を仕掛けて来ているらしかった。

しかし、


「……アー……悪イ、大将。今回はちとヤバイかもしれねエ。」


強化外骨格を形作る魔力を供給しているフランメが、普段からは想像しづらい程の弱気な言葉を口にした。

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

いきなりシュウスケの頭に向かって突っ込んで行き、派手にぶつかりました。