なんて歌が詠まれるのはもっとずっと後の話だけど、大体今もそんな感じの世の中。

　地方ではちょくちょく小競り合いはあったけど、都の周りは天下泰平の世の中で、ツナちゃんは超名門武家に生を受け、生まれながらに勝ち組確定のエリート人生……の、筈だった。

　元服前…八つくらいの頃だったかな？　
　突然親父に呼ばれて大江山で剣術修行をしてこいって言われた。

　エリート武家なんだからちゃんとした指南役を何人も抱えてたし、何をするにも便利な京の都から、なんでそんな田舎に送られるの？　嫌がらせなの？　……とは思わなかったね。
　何せツナちゃんその頃は超いい子だったからさ。

　そんなわけで都を離れ、遥々大江の山に来てみてびっくり。
　広大な平安京とは広さこそ比べるべきも無いけれど、都に建っている建物に遜色劣らない朱塗りの大柱の大御殿を中心にして、立派な建物がいくつも建ってるんだもの。
　いや、もう本当にただの山登りじゃなくて、雲の上の仙界とやらまで登ってしまったのかと思ったね。
　皆が皆ってわけでもないけど、住人達は稲穂みたいな金色の髪だったり、宝石みたいな色の瞳をしてたり、これが話に聞く天女様って奴かと思ったもん。

　剣術の師として紹介されたのは、その朱塗りの大柱の大御殿の主……皆からお館様と呼ばれる男だった。
　精悍な顔つき、惚れ惚れするような引き締まった体躯、豪放磊落な気質と細やかな気配りを併せ持った性格。
　本人の頭脳明晰さは勿論、指導力に優れ「王の資質」とはこういうものか、お山の大将に収まる器ではないと誰にもそう思わせる男だった。

　まぁ、初対面ではそこまでわかるわけもなく、いつもふんぞり返ってる親父がやけに縮こまってぺこぺこ頭を下げるなぁって思ったのを覚えてる。
　こうしてツナちゃんの修業は始まったのでした。

シエラはテーブルに置かれた回覧板をそっと開く……

らいちがシエラの肩を掴む……。

シエラは片手で咄嗟の事に色めき立つ団員達をなだめる様に座れとジェスチャーする。

らいちはシエラの肩を突き飛ばすように離すと、天幕の出口から出ていった。

教会の扉を開け放ち、司祭室にずかずかと上がり込むらいちをレオン神父が出向かえる。
　

一瞬の沈黙の後に神父が口を開く。

神父は明らかに知っている……が、話せないと言った事をにおわせつつ、椅子に座ったままらいちをじっと見つめている。

このままでは埒があかない……と、らいちが着流しの懐をまさぐる……。

神父は腕組みをしてしばらく考えた後……。

そう言って戸棚の引き出しを指さすと、らいちの脇を通って部屋から出て行った。

らいちはその様子を黙って見送り、指示された戸棚の引き出しを開けると……

中に置かれていたカードを素早くしまい込み、教会の外へと駈け出して行った……

しばらく後、神父はティーポットと一脚カップを持って帰ってくると、テーブルにそれらを置き、戸棚の引き出しを覗き込んだ……

　　　　　　　カラカラと笑って膝を打つ

　　　　　　　クルクルとリールを巻く様に手を回し