室内。
　蝋燭の灯りの中、2人の人物が向かい合って座っている。

「では、何か？　虫けらに命を救われた……というわけか？　」

「ああ、丁度狩衣の袖にホタルが止まったんで、刀を振り下ろすタイミングがわかった」

　身長７尺（2m10cm）体重40貫（150kg）ほどはあろうかという大男がツナの話に目を丸くする。

　大男はその巨躯に似合った豪快さで、部屋の柱が震えるほどの大声をあげて笑う。

「四天王ともあろうものが敵に背を向けて逃げ出して、虫けらに命を……ガハハ……ゴフッ……プププ……」

「仕方ないだろ？　あんな真っ暗闇で戦えるかってーの！！　」

　ツナは大男を睨みながら、杯にほんの一口口をつけて膳に戻す。

「ガハハ、そんなもの、俺なら一太刀浴びせられたところを殴りつけて一撃よ！！　」

　大男は丸太のような腕を叩きながら、ツナに答える。

　ツナはと言えば、はぁぁぁぁぁぁ〜っ！！　と大きく溜息をつき……

「次はツナちゃんを狙う前に、お前の首を一緒に落としに行こうって言っておくよ。
　キンタロー」

　キンタローと呼ばれた大男はにやにや笑いをしながら、桶のような巨大な杯の酒を一気に飲み干すと、急に真面目な表情になり……。

「で、どうする？　あの童子の処遇は……検非違使どもに現場を見られている以上、お前に斬りかかったのは誤魔化しようがあるまい？　普通に考えて打ち首……無罪放免というわけにはいくまいよ……」

　ツナは背筋を正し……。

「上には島流しにするって事で納得して貰った」

「もう根回し済みとは素早いな……」

　ほう、と、大男が感心したような声をあげる。

「今回は原因が原因だし、お館様からは名指しであの童子（ガキ）をよろしく頼むって言われてんだ。
　お上だってあの童子（ガキ）の首を刎ねてお館様に祟られるのは怖いんだろ……好きにしろってさ」

　大男はうんうんと頷く。

「誰だってあのお方に祟られたくは無かろうしのぅ……して、隠岐にでも流すのか？　」

「いや、あんな寂しい所に流して怨念を貯めさせたら、いつか泳いで帰ってきて刺されそうだし、何より不憫だろう」

「だからと言って大宰府というわけにもいくまい……と、なると監視を付けて平泉か？　」

　ツナが黙って首を振る。

「異世界に流すことにした」

「異世界？　高天原にでも送る気か？　」

　突拍子もないツナの言葉に、大男が訝しげな表情を浮かべる。

「いや、まぁ、想像つかないのも無理は無いけど、この国と地続き、海続きじゃなくて、もっとややこしい壁を隔てた世界があってさ……そこは京の都も真っ青の賑やかさだって話だ。
　そこなら気晴らしも沢山あるだろうし、案内人を通さないと帰って来れないから、ある日闇討ちされる心配も無かろうよ」

「ふむ……」

「ま、そっちの世界に根を張って生きる事になれば、餞別に今回の事を話してやらんでもないさ」

「流石にそれは……」

　ツナの言葉に、大男は難しい表情でうむむと唸った。

１日目…■とある日の出来事■

２日目…■旅立ち■

３日目…■ハードボイルドカフェ■

４日目…■エクレア■

５日目…■エクレア・その２■

６日目…■水着■

７日目…■盛夏■

８日目…■爛れた右腕■

９日目…■休養■

10日目…■気功■

11日目…■むかしむかし■

12日目…■ふかいふかーい■

13日目…■２人の童子■

14日目…■笛■

15日目…■銘刀■

16日目…■戦場■

17日目…■選択■

18日目…■逢魔が刻■

19日目…■新年あけましておめでとうございます■

20日目…■一条戻橋■

　

すっぱり

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