勾玉を持ち帰った童子は集落の長にそれを見せました。

「こら、何で出来とるかはとんとわからんが、大変立派なもんじゃ」

　長は童子に勾玉を持って山神様の元へと向かうよう言いつけました。
　童子は山のたかいたかい場所へ上って、ふかいふかい穴を降りていきます。
　山道は月明かりに照らされていくらか明るかったものの、穴の中はまっくら闇。
　童子は構わず勾玉を握りしめ、入り組んだ穴の中を進んでいきます。

「山神様」

　童子はぴたりと歩を止めると、相変わらずの真っ暗闇に向かってお辞儀をします。

「おお？　祭りの時期にはまだ早い筈じゃが、何ぞ珍しい鉱石でも出てきたか？　」

　闇の中から金色の目がふたつぎょろり。

　瞳の大きさと、その間隔を見るに、身体の大きさは童子とそう変わらないようです。

「親父が山上様にこれを見せよと言うとってな」

　童子が握りしめていた勾玉を差し出すと、山神様はそれを小さな手で受けとり、しげしげと眺めます。

「こりゃあ……」

「高価なもんか？　持っとった男は高貴な身分には見えんかったが、どこぞの蔵から盗んで来たんか？　」

　山神様は童子のその問いかけには答えず。

「ううむ、長に他の長を集めて神殿へ入るように伝えぃ。来るときは松明を焚いて構わんでな」

　神殿……とは言っても、朱塗りの御殿が立っているわけではなく、この穴の入口に近いところにある、少し開けた場所をそう呼んでいるだけでした。

　童子はわけのわからないまま、ただ、山神様から命じられた事を守るべく、また、まっくら闇の中を帰っていくのでした。



　松明に照らし出された『神殿』に集まった集落の長達の中央には、真っ黒い奇妙な人影が立っています。
　土や煤に汚れたのとはまた違う、真っ黒い肌、矮躯で金色の瞳がぎょろぎょろとせわしなく蠢めいています。

「まず間違い無いの……」


「我々は一体どうすれば良いのでしょうか？　」

　奇妙な人影から、男の素性を聞いた長たちは、一様に狼狽した様子で人影に尋ねます。

「それはワシの決める事では無いよ」

「汝らが拒むというのであれば、ワシもあれにそう言おう」

「汝らが受け入れるというのであれば、ワシもあれにそう乞おう」

　長達は互いに顔を見合わせると、小声で話し合いを始めました。
　真っ黒い人影は地べたに腰を下ろし、じっと瞳を閉じて結論を待ちます。



　小一時間ほどして、長達は互いにうんうんと頷きあい、そのうちひとりが真っ黒い人影の前に歩み出ました。

「我々はあのお方を我々の王としてお迎えしたいと思います」

「そうか、では、お迎えする用意をせねば……な」



　男と童子が別れてからちょうど３日後、集落の長達が皆して山里を訪れ、男と共にあの山へ向かう道を歩いて行きます。
　童子はと言えば、あの時と同じ木の枝の上からその様子を不思議そうに見下ろしています。

　男は前を歩く長達には感づかれないようにそっと顔を上げ、童子に手を振りました。

　童子はそれには応えず、ただただ、男の姿が小さくなって見えなくなるまでその背中をじっと見つめていました。

　

　

取り繕っているが、ドン引き感は隠しきれなかった。

らいちの冷たい反応にショックを受けるミラ。
彼女のエンブリオであるウィスプのフィアもまたどこか寂しげな動きを見せつつミラの背後へと戻っていく。