「……ここは、…何処だっ？いつの間にこんなところに……」

気がつくと俺は、見知らぬ夜の草原の中にいた。
蒼く光る月の照らす夜の草原は、静かな風に草はなびき、周囲を舞う幾つもの蒼い光の粒はまるで蛍のような小さな光。
見渡す限り同じ草原が広がり、それは何処までも延々と続いている。
ここはどれだけ前に進もうと決して目の前の景色は変わることのない無限の草原だった。

『いつの間にって？何言ってるのさ…、君は自らこの場所へ訪れたんじゃないか？』
「……ッ！？」

誰かいるのか…、確かに俺は一人の存在の…、見知らぬ存在の声を聞いた。
この静かな空間で俺に届いたその声は、一体何処から発せられたものなのか。まるで全方位から聞こえるかのようで、一体何処から聞こえてくるのかもわからない。

「誰だっ…、お前は何処にいるんだっ！？」
『何処って？…君の中だっ』
「俺の、…中？どういう意味だよっ？」
『そのままの意味だよっ…、君だってわかってるだろう？自分の身体に何が起きたか…』
「なっ…！？」

あの時の蒼い光は、俺の中に潜んでいる奴の力だって言うのか！？
じゃあ何時の間にか俺は、奴に憑依か何かされたってのか？無意識のうちに光が敵を一閃したのも…、俺の中にいる奴が…？

『でも…、今の君ではちょっと不完全ぎみかなぁ。あの時、余計に力を消費したような感じとかなかった？例えば…どっと疲れるような感覚が襲ったりとか』
「あぁ…、あったなっ…、あの後は宿へ行くまでの道のりが辛く感じたくらいだっ」
『でも運よく彼女に支えてもらったおかげで助かったじゃないか。それに気になる彼女とはとても大きな進展にまで至った訳だし』
「まぁ…俺もその時はリフィに思いを伝えることが出来て嬉しかったし、彼女の気持ちも知ることが出来たり、彼女と…とすることができて嬉しかっ—、って違うッ！今はそういう話題を話す場面じゃないっ！」
『あはははは…、本当に君は面白いよっ。成長したようで小さい頃から、何処か変わらないなぁ…』

相手の言う小さい頃から変わらないという発言が気になった。
相手は俺を小さい頃から知っていた？俺は小さい頃から、未だ姿かたちのわからないこいつと一緒だったとでもいうのか？

『思い出してごらん…、幼い頃の君は図書館に行ってファンタジー大辞典を読んでいたことがあったねっ。あの時、気になる名前があったはずだよね？』
「そういえばあの頃は木材を使って剣を作っていたこともあったな…、確かあの後は母さんに起こられて、あの剣は捨てられたんだっけか……」
『そうだよ正義、君はその手作りの剣に対して一つのイメージを浮かべた。たとえ見た目は不恰好な剣でも、君の作り出したイメージがそれを色鮮やかなものへと変化させたんだ。君が僕をイメージして、名前を与えてくれたおかげで…僕という存在は生まれたんだっ』

そうだ…、確か木の剣を作って友人たちと遊んでいた時に、不恰好な見た目を自分の中のイメージで誤魔化そうとイメージを浮かべた。
イメージさえしてしまえば、例え見た目が不恰好な剣でもそのイメージする剣を手にした自分になりきれると信じていた。
あの頃がとても懐かしい…、今思えばそれもまた一つの黒歴史のようなものかもしれない。けれど幼い頃のそんな自分もまた、自分なのだ。
刻まれた過去は決して変わることはない…、けれどその過去こそが過ごしてきた証。今の自分を形作るまでのルーツでもあるのだから。

『もし僕の名を思い出してくれているのなら…、必要な時になったら…自らの意思で光を発現して、君のイメージで光を形にするんだ。今の君になら…、それが出来るはずだよっ。その時は…もう一度、僕の名前を呼んでっ』

目の前を次々と、光の粒が全て埋め尽くしていく。
やがて全てが蒼く…、そして真っ白に……。


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「……、夢…か……」

目を覚ませば、さっきまでの草原ではなく…とある宿の一部屋。
窓を見ればもう夜だ…、寝る前は降っていた雨もすっかり止んでいて、雲が残るもいい月が輝く夜空である。
それにしてもあの蒼い光の正体…、確かに物には魂が宿るとかそんな話は聞いたことはあるが、まさかあれに宿っていた魂とでもいうのか？
……今更信じられないと言っても意味がないなっ。既にその信じられないような出来事が起きてしまっているのだから。

「まぁ…、あいつが戻ってきたら何かわかるだろう。必ずとは限らないが…、今はあいつの情報が便りだっ」

俺がこうしている間にも、ルーディは元いた世界で生みの親と一緒に、あの蒼い光について調べてくれているのだろう。
明日になれば何かわかるかもしれないしそうでないかもしれない…、今はただ…いい結果が出ることを祈るしかない。

「……リフィはまだ、気持ちよさそうに寝てるな」

俺の上にはリフィが今もすやすやと眠っている。何かいい夢でも見ているのかとてもいい寝顔をしていた。
たびたび俺の名前を寝言で口にしているあたり、夢の中に俺でもいるのだろうか。

「ん…あれ…」
「おはよう…というにはもう遅いか」
「んん…？」

ここでリフィも目を覚ました。まだ少し寝ぼけている感じがあるが、起きたばかりなのだから無理もない。
俺は寝ぼけているリフィに、寝るまでの間の出来事を話す。
リフィと俺が今日は相部屋することにして…、弱っていた俺をここまで支えてもらって…、この二人きりの部屋でお互いの気持ちを明かして…、それからは…お互いに初めての経験もして……。

「…そ、そうでした…。えっと、正義さんのお身体の方は大丈夫ですか？」
「あぁ…、リフィと一緒だから…回復もはやかったんだなっ。…なんてねっ」
「む〜、私は本気で心配してるんですよっ？」
「あははは…、わかってるよ。リフィが一緒で本当によかった…」
「もうっ…。あまり心配させないで下さいね……」

リフィを抱きしめながら、俺は彼女の頭を撫でる。
起きた後は眼鏡が何処にあるのか探していた彼女も、一度探すのをやめて可愛く甘えていた。

「明日になればまた別々かぁ…。お互いに自由の時間さえあれば、一緒にいられる時間も…もっと出来るのになぁ……」
「早く一揆が終れば良いんですけどね…。そうすれば、もう危ない目にもあわないでしょうし…」
「きっと終わるさ…、いつになるかはわからなくとも、必ず成功させられる。勢いがついてきたし、一揆の参加者だって増えてる。その分、終わる時も近くなるさ。もし一揆が終わったら、もっとたくさんの時間を作れるんだろうな…」
「そうですね…。そうしたら、また二人でデートできますね」
「自由な時間と予定さえあえば、また近いうちにできればいいんだけどなぁ……」
「今後はなかなか難しいかもしれません…。今度、砂地の方へ行くとか新しく発見された地下牢に行こうとか色々案が出てますし、そうなるとなかなか時間がとれなくなってしまうかも…」

リフィのパーティにも進むべき道はある。それに今は勢いに乗ってきた時期だ。
一緒に何処かへ行ったりする予定も、この先は簡単には取れなくなるかもしれないだろう。
それでも少ない時間でも一緒に過ごせる時があれば、その時間を大切に過ごしたい。

「今は少しずつでも、一緒の時間を積み重ねていけばいいさっ。いつもの場所で話せる時間もあるし…、短くとも一緒の時間は大切な1ページになる。積み重ねていけば、それはどんどん膨らんでいくよっ。少しずつでもいい…、今は許される中で、一緒にいられる時間を大切にしよう」
「…はい。では、今は一揆の方をお互い頑張るとしましょう…」
「あぁ…。でも二人でいられる時はこうして君の近くで話していたり、君の温もりを感じたい……。本当にこうしてると安心するよ…、残された時間でリフィと一緒にいられれば、明日の戦いもひと一倍がんばれそうだっ。…でも無茶はしないようにするよ」
「ふふっ…、約束ですよ…？怪我は多少は仕方ないとしても、無茶はしないでくださいねっ…」
「あぁ…、必ず無事でいるよっ。またいつもの場所で会ったら、その時もまた…リフィの料理が食べたいよっ……」

お互いに抱き合いながら、ゆっくりと口付けを交わす。
明日になればまた別々だけど…、それまでは…リフィと一緒の時間を大切にしたい。
大丈夫…。リフィに心配をかけないように、明日はきっとがんばれそうだ……。

目の前の、黒鷺と名乗る青年以外にも己の喋る言語を操る人間はいて。
だからこそ何となく予感こそしていたものの、彼の口からイレギュラーな制限を持った異邦人は他にもいるときけば、何の解決にもなっていないというのに、ただ”自分以外にもいる”という勝手な共感に、ほぅ、と安堵の息をはき。

そこまで言ってから、一瞬だけ、ぴた、と止まった。
ん？と首を捻るものの、それは本当に僅かな時間で。その首を捻った理由も語る事なく、相手へと目線を戻し。

そう言って、笑う。

慣れた手つきでサインをしていき、その横に『まさよしくんへ❤』と書いた

レティは悦に浸りながらルーディを撫でている

ふわもこの二本尻尾が、ぱったんぱったん。

アクスをぶんぶん振り回しつつ

ダダダッ　と走り去る。

アクスをぶんぶん振り回しつつ