荷物袋、此方の世界に飛ばされてしまった時にもこの袋だけは自分の傍に落ちていた。
その中には余り物は入ってはいなかったけれど私にとって大切だと思える物がちらほらと入っている。
荷物袋から取り出した一冊のノートを手にしてぱらぱらページを捲ると思わず笑ってしまう。

サラちゃん、最近遠慮っていう物を無くし……いや、あるのかな、エンブリオの子達に遠慮って。
それはいいとして…。

別に見られて恥かしいもの…じゃないと思うからサラちゃんを隣にまで誘えばノートを開く。

どの日からにしようかと思ったけれノートを適当に捲り…適当な所で止める。


○月×日　△曜日

今日はダンスを踊りながら歌うという練習を重点的にやった。
練習をすると段々と自分の身体が動きを覚えて…何処を如何すればより良く見えるのか判ってくる気がして凄く楽しい。

レッスン終了後、休憩をしているとマネージャーさんが他のアイドルの子を連れて来てくれた。
その子の名前は芥菜ルリちゃん。私より年下な子だった。
…後から聞いたけれど私のレッスンを見ていたようだった。
練習に集中しすぎて気付いてなかったから、見られていた事を後で告げられて何だか少し恥かしかったなぁ……。

ページを何回か捲り再び手を止める。

○月△日　□曜日

ルリちゃんと練習をしていて暫く経つけれど、気付いた事がちらほらとある。
ただ、私が思っただけだから本当がどうなのかはわからないんだけれど。

彼女は自分が綺麗に映る場所を知り尽くしている気がする。
何処で如何動き、如何映るかが見えているかのように…自分が一番綺麗に映る場所へ無意識に立てる子なのだと思う。
私とは違った動き、仕草…ルリちゃんだけが出来る動きなんだろうなと思う。
……試しに自分でルリちゃんの動きを真似たけれどルリちゃん以上の力は出せてなかったし…自分の「此処」が良いと思える所を出し切れない感じがした。

…ルリちゃんにはルリちゃんにしか出来ない動きがあって、私には私にしか出来ない動きがある。
ユニットを組まないと気付けなかった事が此処最近で色々と出てきた。

ルリちゃんは可愛くて、皆を魅了して釘付けに出来る事が出来る子。
私は…可愛いより、格好良く踊って皆へ熱をあげる…盛り上がらせる事が出来るように。
互いに一人では決して出来ない事を二人でカバーをし合える関係にこれからなっていかなきゃ。

…よーし、そうとなれば練習！ルリちゃんが何だか面倒くさそうにするかもしれないけど一緒に練習しようって誘ってこよう！

忘れられてしまうというのは辛く悲しいことだと思うから。
だから、知り合った人の事は成るべく覚えておく為に日記やメモをして覚える。
自分を知ってくれた人達の事は大事にしたいから。

元の世界の事も心配だけれど、…今は此方の世界で頑張らないと。
戻るために、そして此方の世界で色々な経験を積んで力にする為にも。
ノートを閉じて荷物袋の中に戻してから今日のレッスンを開始するのでした。