※Eno.457の日記とリンクしています
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　佐藤深雪／ウルド
　王立錬金アカデミーの学生で魔法少女。
　うさぎが自分の幸運のシンボルと信じて疑わずうさぎ大好き。
　FPという名の黒うさぎの縫いぐるみが使い魔。
　なんか色々あって元の世界に還れなくなり、異国でウルドという名前で生きることを強いられている。
　サクラを支援するために、現在は特別卒業試験の課題だった『兵庫さんを元の世界に送還する方法』を引き続いて研究している。
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　今夜、夜祭で花火大会があるらしい。
　地元の人からそんな話を聞いた私とサクラは、パーティのみんなを誘って花火鑑賞にやって来た。
　サクラは桜の花びらをあしらった浴衣を、私はうさぎの描かれた浴衣をお披露目して、お互いにはしゃぎながら浴衣姿を褒め合った。
　レイヤ先生やセツカ兄ぃも、落ち着いた色の浴衣に着替えて夜祭の風情を楽しんでいるようだった。
　うさぎ先生は着ぐるみのままだったので、他の見物客から奇異の視線を向けられているようだった。
　空を見上げながら次々と打ち上げられる花火に、私達は最初のうちは拍手や歓喜の声を上げていたが、いつの間にかサクラとレイヤ先生は火薬の合成の話に切り替わって熱く語り合っていた。

「あたしならさっきのは、ハート型でピンクの色でフィニッシュするように合成しますね。」
「ふん、俺様なら七色に輝かせて六芒星を描くぐらいは容易い。」
　
　話に熱中してるのか、サクラとレイヤ先生の声は次第に大きくなり、他の見物客からも注目され始めていた。
　私は周りの視線も気になるので、レイヤ先生にそれとなく注意を促す事にした。
　
「あのー……今は難しい話は抜きにして、純粋に花火の綺麗さを楽しみませんか？」
「うるさい。お前には向上心がないのか。」

　身も蓋もなくレイヤ先生に言い伏せられて、落ち込んだ私はサクラにめいっぱい慰めて貰うことにした。
　それからは、サクラの方も錬金術の話題を控えてくれたお陰で、和やかに花火を鑑賞することができた。
　最後の仕掛け花火のナイアガラが終わった頃、さっきまで晴れていた夜空が突然曇りはじめてあっという間にどしゃ降りになってしまった。
　
　激しい雨に加えて轟く雷に、他の見物客は半ばパニックになり逃げ惑った。
　サクラ達と散り散りになった私は、逃げ惑う見物客の押し合い圧し合いにたまらず悲鳴をあげてしまった。
　ふと、人混みの中から伸びる手が私の腕をしっかり掴むと、人の流れから上手く逸れるように引っ張っていってくれた。
　セツカ兄ぃかユカラが、私を見つけて誘導してくれてるのかも知れない。
　人混みで姿はしっかり見えないが、それでも雨宿りできそうな場所へずんずん進んでいく力強い腕の感覚に、私の鼓動が少しだけ高くなった気がした。
　ようやく人混みが疎らになり、雨宿りのできそうな場所に辿り着くと、私の腕を強く握っていた主は手を解いて振り返った。

「ここまでくれば安心だな。怪我は無いか？」
「あっ、はい。大丈夫です。ありがとうございます、レイヤ先生。」
　
　雨に濡れた髪をタオルで拭きながら、私はお辞儀をした。
　何で私の事を引っ張ってきてくれたのかちょっと理解できていなかったが、先生もいいとこあるんだなと私はレイヤ先生を見なおした。

「なんでお前が居るんだ。」
「えっ、何でって……レイヤ先生が引っ張って来たんじゃないんですか。」

　普段から機嫌のよくなさそうなレイヤ先生の顔が、あからさまに機嫌の悪い表情に変わった。
　どうやら、雨宿りに誘導したかったのは私ではなかったらしい。
　
「だから、何でお前なんだ。紛らわしい所に居るな馬鹿者！」

　レイヤ先生は、何処からか取り出したフラスコで私の頭を小突いた。

「痛っ！？ってか、アレですよね！サクラと間違えたんですよね！？あんだけ手を握ってて分かんなかったんですか！？」
「勝手な妄想をするな。アホ毛を引っこ抜くぞ。」
　
　レイヤ先生はフラスコを仕舞うと、私のひょろんと伸びてる毛を掴もうとした。
　何となくそれを察知した私は、身を躱しつつレイヤ先生に詰め寄った。
　

「最近は、サクラがレイヤ先生に付きっきりで霊薬の研究してるじゃないですか！そんで何の進展もないとか、おかしいですよ人間として！」
「いいから、黙れ。サクラは霊薬の研究を直向にしてるだけだし、俺様もアドバイスをしてるだけでやましい事など何もない。」　
「だから、その直向な研究は誰の為にしてるかって事を言ってるんです！やってくれて当たり前なんて思って無いですよね。それなら、レイヤ先生もサクラに態度で示すべきじゃないんですか。」
　
　私が顔を指さそうとすると、レイヤ先生は少しムッとした態度で、その手を下に払い落とした。

「サクラの事は、お前が心配することじゃない。お前こそユカラといまだに成果なしなのか？この前、兵庫の前で土下座してたが。」
「な、何でそんなとこ見てるんですか！？ってか、ユカラの事こそ今は関係無いでしょ！？私の質問に答える方が先ですよ！」
　
　気が動転した私は、レイヤ先生は先生だけど自分に勉強を教えてくれたことがない事を何故か今思い出した。

「大体、サクラには勉強教えてくれる癖に、私には全然錬金術の勉強教えてくれなかったじゃないですか！レイヤ先生って呼んでるけど、私にとって全然先生じゃないし！」
「じゃあ、お前はうさぎ先生から何か教わったのか。言ってみろ。」
「うさぎ先生はうさぎ先生だからいいんですよ！話をすり替えないで下さい！」
「お前の話は支離滅裂だな。いいから、少し黙ってろ。雨宿りに来たのに雨に濡れるより体力を消耗してどうする。」

　あまりの言葉のキャッチボールの出来なさに、私は目が潤みつつレイヤ先生を睨んだが、レイヤ先生はとっくに夜空を見上げて雨が止んだのを確認して歩き出した。

「雨も止んだようだ。サクラ達を探すぞ……お前、まだ顔が濡れてるのか。風邪ひくからちゃんと拭いておけ。」

　レイヤ先生は懐からハンカチを取り出すと、私に放って寄越した。
　私はレイヤ先生から貰ったハンカチで涙を拭うと、無言で頷いてレイヤ先生の後を追った。
　それでも何だか悔しいので、鼻をかんでからレイヤ先生にハンカチを返してやった。

（ハンカチで鼻を啜る）

そう言うと何かを思い出したのか目を細めてまるでどこか遠くを見ている
それはまるで理想と現実の狭間に揺れた青少年の葛藤のようだ。